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セル生産とライン生産、時代の変化に対応できるのはどっち?

執筆者BUSINESS SOLUTION WEB 編集部
2019.03.27

第二次世界大戦の復興から高度経済成長期を経て、いまや世界をリードする経済大国にまで上り詰めた日本。その背景には各分野における製造業の躍進がありました。そのようなモノの大量生産・大量消費に欠かせなかったのが「ライン生産」と呼ばれる生産方式です。しかし、人々のライフスタイルや価値観が多様化してきた現在では、必ずしもライン生産が効率的とは言えない世の中になってきました。

今回は、ライン生産に代わり台頭した「セル生産」や、テクロノジーを駆使した新しい時代の生産方式について紹介します。

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日本の経済成長を支えた「ライン生産方式」

まずはライン生産方式について解説します。ライン生産とは、1つの製品を各担当者が流れ作業によって完成させる方法です。基本的に1つの製造ラインですべての工程が完結するためこのような名前で呼ばれています。

1913年にアメリカの自動車メーカーであるフォードが導入したのが発祥で、これまで一箇所ですべての組み立てを行っていた作業を、ベルトコンベアによる流れ作業に切り替えたことで生産効率が大きく向上。大幅なコスト削減と大量生産を実現し同社は業績を大きく伸ばしました。

ライン生産のメリットとデメリット

ライン生産の特徴は、製造ラインに配置された各人員が決まった工程のみを行うため、スキルの教育コストが抑えられることです。また、一定の速度でラインが稼働するため、生産量を正確に把握できるのも大きなメリットです。生産ラインを敷設するにはそれなりの時間と経費がかかり、工場のスペースも占有するため、長期的に同一の製品を製造していく場合にそのポテンシャルが最大限発揮されます。

その一方で、局所的な作業になるため、長い目で見たときに作業員の技量向上が望めないことや、単純作業になりがちなため、仕事への意欲が低下し、離職につながりやすいといったデメリットもあります。また、1つの不具合が全工程に影響を与えてしまうことや、増員が生産性向上に直結しないこともライン生産の特徴です。加えて、単一品種組立ラインとも呼ばれるように細かな仕様変更にともなうラインの停止や多品種には適応できないなどの問題も発生してきます。

工程を細分化し個人の裁量も大きくなった「セル生産方式」

セル生産方式とは、1人または少人数がユニットとなり、組み立てから完成までを行う生産方式を指します。ライン生産が主流になる以前のような一拠点ですべての工程を行うスタイルもあれば、U字型に組まれた設備(セル)の中に、製造に必要な部材や機器を並べて、1人またはチームで製造を行うパターンもあります。

セル生産のメリットとデメリット

セル生産とライン生産の違い
セル生産方式にはメリットが多く、作業に携わる人員一人ひとりの裁量が大きいため、仕事でのモチベーションと責任感が高まり、同時に技能も大きく向上することで現場の活性化にもつながります。また各セルが独立したラインとなるため、多品種少量生産に向いています。セル内で組み立てが完結するため、仕掛品の発生も抑えることができます。

1990年代に入り、キヤノン株式会社や自動車メーカーのボルボといった名だたる企業が、従来のライン生産方式を止めセル生産方式に切り替えました。その結果、生産性の向上はもちろんセル生産方式を始めた多くの企業で離職や欠勤が大きく減少しました。

デメリットを強いて言えば、ライン生産とは異なり作業者が複数の技術を高いレベルで有する必要があるので、教育コストがかかることが挙げられます。

「ダイナミックセル方式」は近い将来のスタンダードになる!?

ダイナミックセル方式
現在では多くの製造現場で導入されているセル生産方式ですが、一方で、ICTやIoT、AIが製造現場に普及し始め、より効率的なモノづくりができる生産方式が世界中で萌芽しています。

世界の製造業は「インダストリー4.0」を追従していく!?

ドイツが提唱する、ICT、IoT、AI技術を活用しながら製造業を発展させていく「インダストリー4.0」というプロジェクトがあります。この“4.0”は「第4次産業革命」を意味し、蒸気機関の発明(第1次)、電気の実用化(第2次)、ITによるオートメーション化(第3次)に次ぐ産業イノベーションと位置づけています。

「インダストリー4.0」とは、ビッグデータの集積によってあらゆる人や物の動向やニーズを割り出し、リアルタイムで生産ラインに落とし込み、まさしく工場が生きものであるかのように自ら考え、無駄なく、効率的かつタイムリーに製品を供給していく製造スキームを指します。これを実践している製造現場を「スマートファクトリー」と呼んでいます。

ドイツには従業員数が500人以下の中小企業が数多く存在しますが、その多くが自らの製品(部材)を大企業に納めたり、製造工程を部分的に担ったりしています。多くの協力企業を抱える大企業としては、各企業、各工程が1つの集合体であるかのように足並みをそろえ、納期を守り歩留りを悪化させないよう管理することが求められます。この「インダストリー4.0」の登場によって、企業間で円滑に情報共有ができるようになり、その時のニーズがリアルタイムで製造現場に伝わるようになるため、かつての大量生産時代には見られなかった柔軟なモノづくりが可能になるのです。

ライン生産×セル生産。それぞれの強みを生かした生産方式

ドイツの「インダストリー4.0」のようにIoTやAIを駆使した生産方式は「ダイナミックセル生産」とも呼ばれ、従来のライン生産とセル生産両者の利点を融合させたモデルととらえることができます。例えば、ライン生産工程の中で、製造を担当するロボットがAI(人工知能)によってビッグデータから情報をピックアップし、その情報に基づいて随時生産をアレンジしていきます。これこそがスマートファクトリーが追求する“生きもののような(ダイナミックな)”製造スキームの完成形とも言えます。

インダストリー4.0の動きを受け、日本でも経済産業省が「Connected Industries(コネクテッド・インダストリーズ)」を提唱しました。ITと製造業をより密に、効率的にマッチングさせていくことで、同じモノづくり大国であるドイツと対等に渡り合い、国際的な競争力を維持していこうというプロジェクトです。

潮流となりそうな「M2M」とは?

製造業を語る上で欠かせないキーワードとして「M2M」があります。M2Mは「Machine to Machine」の略で、機械同士での情報のやりとりを意味しています。

例えば、ビルの入退館システム(センサーによる扉の開閉や防犯装置の稼働、ログの記録など)やウェアラブル端末を使ったヘルスケア管理、車の自動運転などがこれに該当します。あくまで機械同士の接続のため、インターネットに接続されているかは問いません。人間の手を介さない“機械による制御”という理解ができます。

IoTと似た概念ではありますが、IoTは、得られた情報をネットワークと接続して外部と通信する機能が加わるため、各所で散らばった情報を一元管理する場合に用いられます。当然、AIの普及によって外部のデータを取り入れること、そして得られたデータを有機的にビジネスやサービスに落とし込むことも可能です。その結果、世界情勢やトレンドに始まり、地域における人の転入出、季節や気候の変化といったあらゆる予測可能な現象を鑑みて、常に先手のビジネス展開をしていくことが可能になりました。

スケールの大きい話題ですぐに現実化するのは難しいという声もあるでしょう。しかし、これからの製造業はより急速にデジタル化していくのは確実です。

まとめ

今後、リードタイムの短縮などスピードが求められる現在の製造業においては、IoTを駆使した製造スキームなくしては、世界はもとより国内での競争に勝つことも難しくなるでしょう。現在、多くの製造企業で製造ラインの各所をネットワークに接続し、現場の状況を常にモニタリングできる仕組みづくりに注力しています。これは決して大企業のみならず中小企業でも始まっている取り組みです。

流行や顧客の細かなニーズを充足していくため、今後ダイナミックセル生産方式が定着してくることでしょう。日々情報が飛び交い変化していく製造現場をマネージングしていくために、まずは身近なところからデジタルツールに切り替えてみてはいかがでしょうか?

製造業の働き方改革デジタル化の進め方