省人化

中小企業がIT化を成功させるための課題とポイント

執筆者BUSINESS SOLUTION WEB 編集部
2019.02.28

先日、国内最大級の企業情報データベースを持つ帝国データバンクによって発表された「『人手不足倒産』の動向調査」によると、人手不足による倒産が過去最高件数を記録しました。国内の人口減少に歯止めがかからず、超高齢社会化も進む日本では、新たな人材の確保が全国的に難しくなっています。

少ない人材でより高い売上や利益を生むためには、1人当たりの生産性向上が欠かせません。現在はパソコンやスマートフォンといったデジタル端末を1人1台以上持つなど、IT(Information Technology:情報技術)ツールが普及しているため、ITを活用して生産性を上げる取り組みが広がっています。

日常的に利用するメールや文書作成だけでなく、売上や顧客情報の管理なども技術の進歩によって実現できるようになりました。こうしたITを活用したサービスを取り入れる企業が増える一方、中小企業のIT活用は、あまり進んでいないとされています。なぜ中小企業のIT化が進まないのか、その課題や解決のポイント、IT化のメリットなどを解説します。

参考:「人手不足倒産」の動向調査(2013~18年)

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中小企業のIT活用が進まない理由

全国中小企業振興機関協会の「中小企業・小規模事業者の経営課題に関するアンケート調査 2016年」の調査によると、中小企業のITツール活用実態は以下のようにまとめられています。

ITツールごとの利活用状況 (%)
  メール 一般オフィス
システム
給与・経理業務ソフト グループウェア 電子文書での商取引や受発注情報管理
(EDI等)
調達、生産、販売、会計などのソフト
(ERP等)
最小規模企業群 37.8 36.3 20.4 7.3 11.4 11.4
小規模企業群 49.2 48.8 29.9 7.9 16.9 16.7
中規模企業群 56.3 58.5 42.9 12.6 21.4 23.4
大規模企業群 72.4 74.2 60.6 21.7 25.6 31.7
全体 54.1 55.9 40.3 12.2 18.5 21.5

『規模別・業種別の中小企業の経営課題に関する調査』平成28年7月、(全国中小企業振興機関協会)を元に表を作成>
※規模の分類については参考資料に準ずる

上記の表から分かるように、最小規模企業は電子メールですら活用率が30%台と半数に遠く及んでいないなど、大企業と比べると低水準にとどまっています。現在も資料の送受信にFAXを利用しているため、メールを必要としていない企業が多く残っているからと考えられます。会計業務もすべて手作業で行い、多岐にわたる資料のすべてを紙の帳簿で管理している企業も少なくないでしょう。

このように、大規模企業では当たり前のように利用されているITツールが、中〜小規模の企業ではほとんど利用されていないことも珍しくありません。ITツールの利用に踏み出せない企業は、どういった課題を抱えているのでしょうか。帝国データバンクの「中小企業の成長と投資行動に関する調査報告書」から読みとれます。

IT投資を行わない理由
「中小企業の成長と投資行動に関する調査報告書」(2016年3月 帝国データバンク)を元に図を作成>

中小企業がITを導入できない理由は、大きく2つに分けられます。「導入効果がわからない」「コストが負担できない」といった「費用対効果への理解不足」と、「ITを導入できる人材がいない」「使いこなせない」「適切なアドバイザー等がいない」などの「IT導入や活用できる人材の不足」です。

では、こうした課題をどのようにクリアしていけばいいのか、「費用対効果」と「人材不足」の点から解説していきます。

IT化のメリット

IT化のメリット

新しいITツールやサービスを導入するためには、機器を購入したり、サービスを契約したりしなければなりません。IT化する費用対効果への不安から分かるように、IT導入までには、情報収集や製品の比較検討、見積もりを取って現場で検証するなど、大きな金銭的コストがかかります。さらに導入してからも、投資コストを回収するプランの策定や従業員の教育が必要です。

IT化には大きなコストがかかりますが、効果的に活用できれば、企業規模や業種にかかわらずコストを上回るメリットを享受できます。IT化の代表的なメリットは「売上や利益の最大化」と「従業員満足度の向上」です。なぜ、IT化がこうしたメリットを生み出すのか、それぞれ解説します。

労働生産性向上による「売上と利益の最大化」

数あるメリットの中でも、最も分かりやすいものが「売上と利益の最大化」です。しかし、ITツールやサービスの導入が売上や利益に直接つながるわけではありません。

IT化は書類整理や売上の計算といった業務の効率化をサポートしてくれるだけですが、たとえ細かい作業の削減でも、毎日発生するのであれば、月や年単位で換算すると膨大な時間の削減になります。IT化によって、こうした毎日の「小さな負担」を軽減・解消できれば、さらなる売上や利益を上げるための時間を生み出すことが可能です。

しかし、「業務内容に適したITがない」という声も挙がっています。業種や業務内容によって、IT化が適さない企業もあるのでしょうか。実際にIT化した企業と、IT化していない企業の売上高を比較した業種別のデータを見てみましょう。

IT投資有無別の売上高

IT投資有無別の売上高経常利益率
「中小企業の成長と投資行動に関する調査報告書」(2016年3月 帝国データバンク)を元に作成>

上記データから分かるように、業種にかかわらず、IT化した企業の方が高い売上と利益率を上げています。専門的な業務のIT化は難しいかもしれませんが、どの企業にも書類整理や経費精算をはじめとした共通業務が存在します。こうした業務をIT化して負担を削減することで、売上や利益の最大化を間接的に実現できるのです。

負担軽減や利益向上によって「働き手から選ばれる会社」に

企業としては、売上や利益も大事ですが、企業を支えてくれている「従業員」も同じくらい大切です。効果的なIT化は、現職の従業員だけではなく、将来の従業員へもいい影響があります。

IT化によって生産性向上が実現できれば、すでに働いている従業員への報酬として「作業負担の軽減」だけではなく、利益増加による「賃金の上昇」も見込めるでしょう。現職の従業員に利益を還元できれば、満足度の上昇とあわせて離職を防ぐ効果も期待できます。

また人手不足が全国的に深刻化しているため、どの業種でも人材の獲得競争が発生しています。こうした時代背景の中、新しい人材を採用するためには、「求職者から選ばれる企業」になる必要があります。ITを活用して「負担が少なく、賃金の多い会社」は、求職者から選ばれやすくなると考えられます。

特に、若い世代の求職者は「デジタルネイティブ世代」と呼ばれ、学校のレポートをスマホ1台で仕上げるほど、日常的にITを活用しています。会社の未来を担う若い世代にとって、「IT化されているか否か」も企業を選ぶ基準になり得るでしょう。

現職の従業員満足度の向上と今後の採用活動を見据え、IT活用による業務改善は、全企業でより一般的になっていくと考えられます。

人材不足でもIT化するポイント

IT化するポイント

「売上や利益の向上」「従業員満足度の向上」といったメリットがあっても、ITに詳しい人材が社内におらず、導入を諦めてしまう企業も多いかもしれません。しかし、IT化は決して難しいことではありません。

IT化の実現と成功にとって重要なポイントは、「IT化する業務の見極め」と「課題の明確化」です。こうした「業務の見極め」や「課題の明確化」を行ってからIT化の検討を始めると、情報収集や製品の検討も軸をぶらさずに行えるため、少ない労力で導入できるでしょう。

クラウドサービスか周辺機器ツール。目的に応じて選択する

企業がIT化する際の一般的な方法は、周辺機器ツールの活用かクラウドサービス利用の2つです。それぞれメリットやデメリットが異なるため、IT化する予定の業務や課題によって、ツールやサービスを使い分けることをおすすめします。

最後に、クラウドサービスと周辺機器ツールの特徴とメリット、デメリットをご紹介します。

柔軟に利用できるが、ITリテラシーが必要な「クラウドサービス」

クラウドサービスは、個人のパソコンやスマートフォンなどにソフトウェアをダウンロードしなくても利用できる、インターネットを通じて利用するサービスです。会計や人事労務などの作業を一括で管理できるサービスが多く展開されており、注目が集まっています。

サービス事業者がインターネット上で管理しているため、新しいIT機器を導入する際に必要な社内環境の整備や保守運用が不要なことに加え、企業規模や目的に応じて複数の料金プランを設定しているサービスが多いなど、柔軟に利用できるのが特徴です。

しかし、クラウドサービスのこうしたメリットは経営者側からの視点です。現場の従業員にとっては、新しい操作や管理方法を覚えなければなりません。特に、高齢の従業員が多い企業にとって、パソコンやスマートフォンなどを使った新しいサービスを現場に浸透させるのはさらに難しい側面もあります。

活用業務は限定的だが取扱いが簡単な「周辺機器ツール」

クラウドサービスは包括的な機能を持ち合わせているものの、インターネットを使った操作や管理の面で、一定のITリテラシーが必要になります。クラウドサービスほどの柔軟性は持っていませんが、タブレットやデジタルサイネージ(電子看板)などの周辺機器ツールを利用したIT化でも、業務効率化は可能です。

たとえば、タブレットを導入すれば、紙の業務チェックリストを利用から管理、集計まで同じ端末内で行えます。デジタルサイネージは、設定が済めば時刻に応じて自動的に広報内容を変えられたり、紙の掲示よりも強い訴求力を活かして、注意喚起などにも活用できたりします。

こうした周辺機器ツールは、用途がある程度限定されていますが、取扱いは簡単です。IT化すべき業務の見極めや解消したい課題を明確化できていれば、その課題をピンポイントで解消できる周辺機器ツールを導入することで、高い効果を得られるでしょう。

IT化は「必要なところから小さく始める」

超少子高齢化による労働人口減少は避けられないため、新しい人材の確保はさらに難しくなり、高齢による退職者も増えていきます。少人数で高い生産性を維持できず、倒産してしまうケースも少なくありません。最悪のシナリオを避けるためにも、IT化による業務効率化は必要不可欠でしょう。

これまで、IT化が難しいと感じたり、効果が出なかったりした場合には、「IT化する業務の見極め」や「解消すべき課題の明確化」が不十分だった可能性があります。IT化のメリットは「必要なところから小さく始められること」です。業務全体をIT化するのではなく、業務に必要な作業プロセスの中で課題となっている『ひとつの作業』からIT化を検討してみてはいかがでしょうか。

小さく始める・働き方改革のすすめ