マスカスタマイゼーションでかなえる。顧客視点の生産方式とは?
インターネットの普及で誰もが手軽に情報をやり取りできる現代、顧客が製品情報を入手しやすくなったことは、ニーズの多様化が進む一因となっています。顧客一人ひとり異なるニーズに対応する手段のひとつが、マスカスタマイゼーションです。
現在、マスカスタマイゼーションは、顧客ニーズの変化ひいては時代の変化に対応するシステムとして注目されています。
本記事では、そんなマスカスタマイゼーションの特徴やメリット・デメリットについて解説します。
マスカスタマイゼーションとは?
マスカスタマイゼーションとは、大量生産を表すマスプロダクションと受注生産を指すカスタマイゼーションを掛け合わせた言葉です。大量生産に近い生産性を保ちつつ、顧客ごとに異なるニーズに合った製品やサービスを生み出すものとして定義されています。
大量生産は、一度に同じ仕様の製品を生産することで低コストを実現するメリットをもつ一方で、個々のニーズに応えられないデメリットがあります。受注生産は個々のニーズに寄り添った製品を提供できるメリットがある一方で、コストの削減や大量生産が難しいというデメリットをもっています。
マスカスタマイゼーションは、このような両者のメリットを融合させ、更にデメリットを補い合うことができる生産方式です。ITソリューションの活用や生産プロセスの最適化により実現され、DXが進む昨今では多くの企業から注目を集め、市場規模は拡大傾向にあります。
マスカスタマイゼーションに必要なもの
従来の大量生産や受注生産のプロセスでは、マスカスタマイゼーションを実現することは難しいでしょう。顧客のさまざまな要望を効率的に製品に落とし込むための仕様や、ITツールの導入などが必要ですし、場合によってはその他の業務プロセスも効率化が求められます。
マスカスタマイゼーションを一時的な企画としてではなく、長期的なビジネスとして確立するためには、少なくとも以下に挙げる6つの視点から課題解決が必要です。
・リソースの最適化による生産方式の確立
・ニーズと生産制約のバランスを考慮した製品仕様
・数量や納期に合わせた適正な生産ロットサイズ
・標準原価など基本KPIを満たす生産拠点の選定
・生産制約を緩和する最適な最新テクノロジーの導入
例えば製品仕様はフルカスタムで受けるか、あらかじめ複数用意しておいた選択肢の中から選んでもらうセミカスタムで受けるかによって、生産制約も大きく変わります。セミカスタムを選んだ場合はあらかじめ用意しているパーツの中から顧客要望に沿った内容の製品を作るため、受注状況によっては在庫リスクの問題が起こりやすく、一方でフルカスタムで受ける場合は顧客からの注文を受けてから制作するためリードタイム伸長のリスクを視野に入れる必要があるなど、マスカスタマイゼーションはさまざまな視点から顧客ニーズと生産制約のバランスを考慮することが重要です。
マスカスタマイゼーション実現のメリット
マスカスタマイゼーションは、導入時に必要に応じた設備導入を行うケースもあり、即日のうちに始められるサービスではありませんが、実現するとコストとリードタイムの両面でメリットが期待できます。
コスト削減
マスカスタマイゼーションを実現するためには、システム化や自動化による生産プロセスの最適化が欠かせません。一度効率的な生産プロセスが確立できれば、システム化あるいは自動化による大量生産が行えるため、コスト低下につながります。
また、大量生産が確立すれば、原料の大量仕入れも可能となることからボリュームディスカウントの交渉を行いやすく、原価を抑えることもできます。
出荷リードタイムの短縮
マスカスタマイゼーションは、一度生産プロセスを確立できれば、仕様変更を行う必要がありません。当面の間は同じ設計を活用して大量生産し続けられるため、出荷リードタイムの短縮が期待できます。
出荷リードタイムの短縮は、生産性向上に加えて顧客満足度の向上にもつながる大きなメリットです。
マスカスタマイゼーションの注意点
マスカスタマイゼーションを導入するには、コスト削減や出荷リードタイムといったメリットがある一方で、いくつかの注意点やデメリットがある点も理解しておかなくてはなりません。
マスカスタマイゼーションの特性ゆえに生じやすい注意点として、完全なカスタマイズが難しいことが挙げられます。顧客のニーズを最大限に反映する完全なカスタマイズを行うと、顧客のニーズに合った生産プロセスの調整が必要となり、大量生産の側面が失われます。
また、製造する製品の種類が増えれば、必要な資材や管理にかかるコストの増加や、出荷リードタイムの伸長を起こす可能性もあります。
マスカスタマイゼーションの事例
冒頭で触れたとおり、マスカスタマイゼーションは多様化した顧客ニーズに応える手段のひとつとして、多くの企業に注目されています。IoTや5Gなど生産プロセスを最適化するためのさまざまなITソリューションの浸透により、多くの製品やサービスにおいてマスカスタマイゼーションの導入が現実的となったことも影響して、すでに本格的な導入を進めている企業も少なくありません。
ここではマスカスタマイゼーションが主力サービスのひとつとなりつつある、3つの事例を紹介します。
ハーレーダビッドソン
ハーレーダビッドソンはアメリカを代表する2大オートバイメーカーのうちの1社です。パーツやアクセサリーの販売、ペイントオプションなどを行い、自由なカスタマイズを売りとしています。世界各地に専門のカスタマイズ店が点在しており、ユーザーもカスタムを前提として購入しているのが特徴です。
すでにカスタマイズに力を入れた販売路線をとっていたハーレーダビッドソンですが、2011年には「Build your own bike」戦略を新たにスタートさせました。車輪やマフラー、シートなどあらゆるパーツをオーダー時に自由に選ぶことができるサービスで、パーツを買いこんで既製品を少しずつ自分好みに仕上げる従来の方法とは異なり、納車された日から自分だけの1台を手に入れられる点が魅力です。
オーダー時に顧客ごとのニーズに対応できる理由は、ペンシルベニア州に設置している自社のヨーク工場をスマートファクトリー化したことにあります。老朽化を機にスマートファクトリーとして生まれ変わったヨーク工場は従前より面積も従業員数も半分以下となりましたが、IoTの活用により受注内容に応じた部品の在庫管理や手配、製造などの生産計画が瞬時に反映されるようになりました。
結果、顧客への出荷リードタイムも2~3週間ほど短縮することに成功しています。
参考:SAPジャパン公式ブログ「マス・カスタマイゼーション(一品大量生産)をIoTで実現したハーレー・ダビッドソン」
リベルタパフューム
リベルタパフュームは、2020年にローンチされた日本の香水ブランドです。従来は既製品の中から自分好みの香水を選ぶスタイルが主流だった業界で、自身に最も似合う香りを診断・希望して購入できるサービスが多くのユーザーに愛されています。
リベルタパフュームが提供するサービスの特徴は、個別の診断にもとづいてユーザーに合った香水を作るというシステムです。ユーザーが20問のオンライン診断に回答すると、10万件のデータにもとづく独自のアルゴリズムによってオリジナルに処方された香水が提案されます。
また、定期的にポップアップストアや商業施設で開催されるイベントでは専属調香師へのフルオーダーメイドや、自分自身で香りを作るワークショップの体験も可能です。好きな香りを単純に作るだけでなく、アルゴリズムにもとづいた似合う香りや、ユーザーそれぞれの最適な香りの使い方を提案することで、ユーザーに新たな発見をもたらします。
BMW
BMWは、ドイツが誇る自動車メーカーの1社です。顧客のニーズに合わせて数多くのオプションを用意しており、2018年には内外装パーツを自由にカスタマイズして発注できる「MINI Yours Customized」の提供をスタートさせました。
主力製品のひとつ、MINIのドレスアップパーツに特化したカスタマイズサービスで、3Dプリンターやレーザーエッチング技術を利用したパーソナライズを楽しめます。カスタムできるパーツはドアプロジェクターやサイドスカートなど多岐にわたり、専用のオンラインプラットフォーム上で直感的に選択できる点も人気です。
3Dプリント技術を活用した立体的なカスタマイズは革新的で、細部にまでこだわりたいユーザーに喜ばれています。
参考:知的資産創造「第6回 デジタル化で変化するものづくり・製造業のあり方 製造業の機能分断とマスカスタマイゼーション・Additive Manufacturing」
まとめ
紹介した事例のように、すでに日本国内はもちろん、世界各地でマスカスタマイゼーションによる新たなサービスの確立が進められています。特にグローバル展開を視野に入れている企業で、マスカスタマイゼーションの需要は高まりつつあります。
本格的にマスカスタマイゼーションを導入する場合は、自社のサービスの特徴や強み、弱みを考慮し慎重に取り入れることで、更なる成長に活かすことができます。