物流改革の第一歩 WMSとは? 導入メリットとポイントを解説
正確かつ迅速なモノの供給は、製造業の命題です。しかし、近年ではECサイトの普及に伴い、多品種少量の多頻度での製造が求められるようになり、そのコントロールは難しくなっています。
現在の製造業は、「インダストリー4.0」「ロジスティクス4.0」と呼ばれる大変革を迎え。IT、IoT、AI、ビッグデータを駆使した業務の省人化・標準化が進む一方で、部品の仕入から共有までを一元管理することが求められています。
今回は、製品の入出荷と在庫状況を正確に管理し、ヒューマンエラーをゼロにする「倉庫管理システム」の特徴について解説します。
物流倉庫を一元管理できるWMSとは?
「WMS=Warehouse Management System(倉庫管理システム))は、物流倉庫における「モノ」の管理に特化したシステムです。生産工場から納入される「入庫」、製品をストックしておく「在庫」、そして卸業者や小売店へ発送する「出庫」の3つが物流倉庫の役割ですが、これを一元管理することで、入出庫のタイミングや数量を正確に把握し、作業に関連するスタッフ全員がリアルタイムで情報を共有できるのです。
従来は、手書きや表計算ソフトなどを用いて入庫から出庫までの品目、数量、送付先などを管理していましたが、この手法では人間の手作業に委ねられる部分が大きいため、一度ミスが発生すると損害を生むリスクがありました。小売店や顧客のニーズが多様化した現在、ビジネスの命取りとなりうるヒューマンエラー削減のため、WMSが注目されています。
WMSで解決できる課題とメリット
“正確かつ迅速なモノの供給”と“ヒューマンエラーの低減”が目的のWMSですが、具体的にはどのようなメリットや効果が望めるのでしょうか?
●在庫状況と入出庫の見える化
バーコードによる管理のため、製品が倉庫にあるのか、輸送中なのかといった現在の場所をリアルタイムで把握することが可能です。
●入出庫サイクルの最適化
WMSでは製品の製造時期に加え、入庫時期や消費期限などの製品情報の記録・管理が可能です。基本的に製品は入庫の古いものから順次出荷していくため、特に消費期限の短い食品を取り扱う倉庫においては重要な機能と言えます。
●バックヤード業務のスピードアップ
ピッキングや仕分けの際、製品のある場所までの最短ルートを提示したピッキングリストの出力や、タブレットピッキング、音声ピッキングなど多様な方式を選ぶことができます。そのため、作業時間のロスを減らすばかりでなく、ヒューマンエラーの低減など業務効率化を期待できます。
●誤出荷の防止
WMSでは複数のバーコードに対応しているため、ピッキングミスや誤出荷の削減にもつながります。人間の手を介す作業のため目視による確認はもちろん重要ですが、ピッキングは単純作業のため、つい“だろう判断”しがちになります。出荷命令に対し間違った製品をバーコードが読み取ればエラー音が鳴るので、ミスの少ない効率的な業務が望めます。
●作業の平準化
システムや携帯端末の使い方さえ覚えてしまえば、経験に関係なく誰でも同じようなレベルの作業が可能です。繁忙期に一時的に派遣社員やアルバイトを雇用したいという現場においても、WMSはそのポテンシャルを発揮してくれることでしょう。
●コストダウン
上記で取り上げたようにミスなく迅速な入出庫が可能になれば、より少ない人数で現場を回せるため、結果としてバックヤードに携わる人件費を抑えることが可能です。
●トレーサビリティ管理
トレーサビリティ機能によって、出荷した製品に問題が生じた場合、どこの工場で製造され、どの範囲に出荷されたかという点も追跡できるため、問題の原因究明や早期解決にも大きく寄与します。
在庫管理システムとの違い
同じような管理システムの1つに「在庫管理システム」というものがあります。WMSと似ていますが、在庫管理システムはあくまで在庫管理と入出庫にともなうキャッシュフローを管理するためのもので、現場レベルでの物流業務をサポートする仕組みとは言えません。
WMSでは従来の在庫管理に加えて、納入、保管、ピッキング、検品、梱包、発送といった一連の業務の効率化に寄与します。複数種類のバーコードにも対応しているため、現場のスタッフは自分が関与したアイテムに対し、携帯端末を用いてバーコードを読み取り作業することでミスのない正確なバックヤード業務を実現できます。
WMSの種類は大きく分けると2つ
業務効率化、ミスの軽減などさまざまな面で業務改善が見込まれるWMSですが、そのシステムには大きく2つのタイプが存在します。
オンプレミス型
ソフトウェアを社内サーバーにインストールして、独自にカスタマイズして使用します。基本的に社内だけでのシステムになるため、セキュリティ性や、複雑なオーダーに応じたカスタマイズ性に優れているのが特長です。製造・物流拠点が比較的少なく、自社内でサービスが完結するような企業で導入されています。
ただし、大がかりなシステムになりがちなため、初期投資に多大な費用がかかるばかりか、オペレーションやメンテナンスの専門家を確保しなくてはいけないという課題もあります。システム運用をアウトソーシングすることも可能ですが、別途人件費が発生するため、やはり大企業向けのシステムと言えます。
クラウド型
ベンダーが提供するクラウド上でサービスを利用します。社外のサーバーを使用することになるので、セキュリティはオンプレミス型より弱くなります。しかし、ベンダーのサポートを受けられるため、専門人材がいなくても運用できるほか、インターネット環境があればどこでもアクセスできます。
また初期コストもオンプレミス型と比べはるかに抑えることができます。新規でWMS導入を検討している中小企業向けのシステムと言えます。
WMSを導入する際のポイント
自社にWMSを導入するにあたり、まずは抱えている課題をきちんと認識することが重要です。業界・業種的な相性もあるので、まずは各サービスの機能や導入事例をよく吟味しましょう。ここでは判断基準となる2つのポイントについて見ていきましょう。
●倉庫間の連携とデータ共有
システムの幅をどこまで広げるのかが重要なポイントです。全国に点在する支社や倉庫はもちろんのこと、場合によっては協力会社や海外拠点にまでそのネットワークが広がるケースもあります。各拠点でそれぞれ別のシステムを使用していると、WMSで得られるメリットは半減してしまいます。また事業部間のシステム連携も互換性があるのかを確認しましょう。
●サポート・セキュリティ面
オンプレミス型よりも脆弱と言われているクラウド型ですが、近年サービスを提供する各社も堅牢性を強化しています。それでも万が一ウイルスの侵入やハッキングに遭ったとき、どのように対処してくれるのかも確認しておくべき点です。また24時間操業をしている事業所では、深夜や休日にトラブルがあった場合のサポート体制の有無も、サービスを選ぶ上で重要なポイントです。
他システムとの連携で、一層強力なビジネス基盤を作る
ここまで紹介したとおり、WMSは倉庫管理に特化したシステム運用ですが、ERPと連携させ、社内で営業・人事・財務といった異なるセクションのスタッフと情報共有を図ることも可能です。
具体的には営業支援ツール、顧客管理ツール、SCM(サプライチェーンマネジメント)ツールなどといったシステムがありますが、クラウドのサービスならばこれらのシステムとWMSを柔軟に組み合わせることができます。ERPは、ITや金融業界でも次々と導入実績があるので、製造業においても組織全体の業務を効率的に機能させ、一企業として強力な基盤を築くことに貢献してくれることでしょう。
まとめ
かつては「物流」や「倉庫」の作業は、人海戦術で業務効率化を図るイメージが強いものでしたが、テクノロジーの発展によって、さまざまな局面で業務の効率化が図られ、人もモノもスマートかつスピーディに動く現場に変わってきました。
同時に、1つの仕事が倉庫内で完結することはなく、営業や総務、外部の物流業者といった関係各所との連携を図りながら、起こりうる事態を常に予測して仕事に取り組む必要が出てきました。そのためには、倉庫や物流拠点におけるITインフラの整備は欠かせないものであり、現場レベルにおいてもハンディターミナルやタブレットといった機器なくして物流は成り立たなくなってきています。日々の高いレベルの顧客ニーズを満たすため、WMSの導入を検討してみてはいかがでしょうか。