ロジスティクス4.0とは? 物流を劇的に変える最新イノベーション
物流業界では、配送ドライバーの高齢化や倉庫作業員の不足が問題化しており、ネットショッピング増加に伴う供給網の複雑化・デジタル化といった新たな課題に直面しています。
そんな状況下で特効薬として期待されているのが、物流効率を飛躍させる「ロジスティクス」という概念です。ロジスティクスは戦前よりいくつかの変遷を経てきましたが、今は上述のような少子高齢化による人手不足やデジタル化の課題に対処するための「ロジスティクス4.0」という考え方が台頭しています。
ビッグデータ、IoT、AIなどを駆使した省人化と標準化を目指す「ロジスティクス4.0」 について解説しながら、最新事例を紹介していきます。
ロジスティクスの変遷
ロジスティクスのイノベーションは、過去に3回起こり、その度に物流効率を飛躍させてきました。物流は、生産拠点から消費者まで製品を運ぶことそのものを指しますが、それに対してロジスティクスは、生産拠点から消費者まで製品を運ぶサプライチェーン全体を最適化することを指します。
しかし、現場の声を反映して物流効率を改善することだけでは、ロジスティクスイノベーションとは言えません。最新鋭の機器・概念が現場に取り入られて、これまでの物流工程の在り方を違ったものに一変させて省力化することを意味します。
ロジスティクスイノベーションは、何度か変遷を繰り返してきました。戦前にさかのぼり、大まかな流れをおさらいしましょう。
輸送の機械化〜ロジスティクス1.0〜
ロジスティクスの元祖が、「輸送の機械化」です。戦前、トラックや鉄道などのインフラが整い、陸上輸送の高速化・大容量化が実現しました。陸上だけでなく、汽船・機船の普及で、海上輸送が拡大したのもこの頃です。
荷役の機械化〜ロジスティクス2.0〜
輸送の機械化を経て、1960年代以降に普及したのが「荷役の機械化」です。大きいコンテナを載せたトラックを港湾まで走らせ、汽船にコンテナを載せて海外へ運ぶ工程を可能にしたのは、荷役を担う大型のクレーンです。またライン生産を大幅に効率化したベルトコンベアーの登場もこの頃です。
物流管理の機械化〜ロジスティクス3.0〜
荷役の機械化の次の変遷が、「物流管理の機械化」です。1980年代以降、コンピュータの普及をきっかけに、これまで人が行っていた物流管理の一部をコンピュータが担うようになりました。物流工程をコンピュータで管理できるようになり、在庫管理や配送管理などの自動化・効率化が進展しました。また、通関や各種手続き処理の電子化も進みました。
ロジスティクス4.0とは?
「人手不足」と「ネットショッピングの定着」という構造変化への対処が求められる中、ロジスティクスも次のステージへ移行しつつあります。それがIoT(モノのインターネット化)とAI(人工知能)を使う「ロジスティクス4.0」です。これによる物流の省人化と標準化こそが、現況を乗り越える突破口になると期待されています。
省人化
ロジスティクス4.0により、省人化がもう一段階進むことが期待されています。歴史的に「輸送」「荷役」「管理」と辿ってきましたが、ロジスティクス4.0で省人化されるのは「操作・判断」です。
わかりやすい例として、トラックの自動運転、ドローンによる配送を挙げることができます。人が操作しなくても製品が消費者に届くこのようなシステムは、実現すると運送ドライバー不足が解消されるため、国も実用化に向けた研究と検証を急ピッチで進めています。
また荷役作業の省人化も期待されます。例えば、倉庫ロボットが挙げられます。倉庫内のピッキング作業は、これまで特定の製品を探して運び出す操作・作業を人手に依存していましたが、現在ではロボットによる自動化が進んでいます。箱詰めの作業も同様です。
その他の省人化ロボットの例としては、人や台車の後を追走する「追従運搬ロボット」があります。ロボットにレーザーセンサーを搭載して、人や台車を追走します。これにより、1人で2人分以上の荷物を運搬できるようになります。障害物を検知すると警告音を出して、作業員に知らせる機能もあります。
標準化
ロジスティクス4.0では、モノとインターネットが繋がることでリアルタイムでの情報共有が可能となります。そのため、判断や業務指示などの標準化が進みます。車両や在庫がインターネットとつながれば、モノの流れと動きがデジタル情報として蓄積されます。こうしたビッグデータをAIにより機械学習・分析を繰り返すことで、より最適な輸送手段やルートを柔軟に組み替えられるようになります。人間の「思考」の部分を、デジタルに委ねられるようになれば、判断・業務指示の質にばらつきがなくなり、標準化を目指すことができます。
ロジスティクス4.0の最新事例
では、省人化と標準化は実際にどのように実現されているのでしょうか。ロジスティクス4.0の最新事例を紹介します。
ドローンで在庫管理。人員を1/3に圧縮
大手プラント会社の千代田化工建設では、大型のプラント建設で、敷地内に置かれた100万点以上の資材を管理するために約300人の人員を投入していました。人件費を圧縮したい同社がとった選択肢が、「資材のIoT化」と「ドローンの活用」でした。
100万点以上にのぼる各資材に、インターネットとつながるICタグ(RFID)を取り付け、ドローンを上空に飛ばします。ドローンはICタグから発せられる資材の情報を逐一監視します。これまで従業員がやってきた作業をドローンに任せられるようになり、人員を3分の1程度に圧縮することに成功しました。ドローンが輸送以外にも効果を発揮できた好例です。
<参照元:日本経済新聞「現場にドローン」>
ピッキングの自動化で従業員の歩行距離を大幅に削減
大手インターネット通販のAmazon.comでは、倉庫内のピッキング作業員が1日に20キロも歩いている労働環境を問題視していました。「特定の商品を決まった場所に運んで仕分ける従業員の生産性を上げたい。」解決に向けて同社が買収したのが、物流自律運搬ロボットを開発していたKiva Systems(現アマゾン・ロボティクス)です。
自動掃除ロボットをひと回り大きくした見た目のロボットが、自動的に倉庫内を動き回り、出荷する商品を保管棚ごと持ってきます。2017年に日本の物流倉庫でも初めて導入され、省人化が大きく期待されています。
<参照元:日経ビジネス「アマゾン倉庫、商品を運ぶロボットを国内初導入」>
ビッグデータで需要予測。欠品数60%減
日用品大手の花王株式会社では、「欠品」は死活問題につながります。日用品の在庫を切らすことで、消費者が他メーカーの製品を代替的に購入することになれば、同社にとって機会損失になるからです。
一方で欠品を防ぎたいからといって、過剰に生産して在庫を増やせば、経営のリスクになりかねません。同社はかねてより部門ごとに生産・物流の最適化を図ってきましたが、個別最適化には限界が見えてきました。
そこで同社が改善のため実行したのが、部門と部門をつないだ情報共有とビッグデータの構築です。その1つが、販売データを持つ小売事業者の情報を、自社の物流部門と共有したことでした。小売事業者の発注・販売データに加え、製造工程、配送プロセスの情報などの膨大な情報量を物流部門が収集し、独自に需要予測システムとコスト分析システムをつくりました。
データに基づく戦略が可能になり、1997年度と比べた2014年度の在庫日数を20%減、欠品件数60%減、輸送コストを35%減らすことに成功しました。
<参考元:経済産業省「我が国ものづくり産業が直面する課題と展望」>
世界から遅れている日本の物流に改革は急務
ロジスティクスは、変遷を繰り返すほどに物流工程がシステマティックになっていきましたが、現在では各国によりさまざまな面で差が鮮明に出ています。世界と日本のロジスティクスには、どのような差があるのでしょうか。日本の一長一短をあぶり出します。
LPIから見る日本の物流
<出展:財務総合政策研究所「イノベーションに挑む日本のロジスティクス」をもとにグラフを作成>
物流の質を比較検討する上で欠かせない指標となるのがLPI(=物流パフォーマンス指標)です。世界銀行が2年ごとに、160か国を対象に物流の質・課題を検証する際に使われる指標です。
日本のLPIは世界12位(2016年調査)と後塵を拝しています。総合スコア上位のドイツ、ルクセンブルグ、スウェーデンなどの欧米諸国は、4.20を上回っていますが、日本の総合スコアは3.97となっています。
欧米物流との比較
日本と欧米の決定的な差が、コスト競争力です。かねてより日本の物流は、荷主の声を吸い上げて、それに応えられるスキルを磨いてきました。その結果「サービスがきめ細やか」「品質と接客がよい」などの高評価を得てきた一方で、コスト競争力では、欧米諸国に一歩劣っています。
荷主の声に依存する日本に対し、客観的な指標を重要視しているのが欧米諸国です。ロジスティクスに詳しい人材を確保し、ITを使った在庫管理・分析を徹底する、現況を的確に把握し、合理的な改善策を都度提案するというサイクルが生まれ、国際入札に強くなったのです。
日本の物流における課題とは
品質と接客レベルは高くとも、コスト競争力で一歩遅れをとっているのが、現状の日本と言えるでしょう。では、そんな日本が、今後さらに乗り越えなければならないハードルが2つあります。それが人手不足による働き手の減少と、ネットショッピングの増加による供給量の増加・複雑化に対処することです。
人手不足
物流業界の大きな課題が、人手不足です。これは少子高齢化に伴う運送ドライバーの減少と高齢化によるものですが、後述するネットショッピングの増加によって、個人宅に届ける小口配送が増え、労働者1人当たりの負担が大きくなったことも関係しています。
ネットショッピングの増加
アマゾンや楽天をはじめとするネットショッピングの普及により、消費者はスマートフォンやパソコンからボタン1つで商品を注文できるようになりました。注文から配送までデジタルで管理するため、当然ウェブサイトやシステムの操作性や利便性は、物流の生命線となります。物流業界としては、これらを扱えるエンジニアの存在が欠かせなくなっています。
まとめ
現在、ロジスティクス4.0の重要性、つまりデジタル技術を活用した変革の必要性が高まっています。それは、少子高齢化による働き手の不足、デジタル化による嗜好の多様化により、物流業界には「少ない人員で、多品種の作業・情報を処理する」ことが求められているからです。
これまでのロジスティクスイノベーションは、輸送の機械化、荷役の機械化、管理の機械化と変遷してきましたが、それらが今では常識となっているように、IoTとAIを使った省人化、標準化も急速に進み、常識となっていくでしょう。
大手企業ではすでに効果を上げている例もあり、今後はその流れが中堅・中小企業へ波及していくと見られます。取り残されないためにも、「ロジスティクス4.0」の導入に向けた小さな一歩が、今の競争社会に求められていると言えそうです。