LPWAとは? 物流・製造業のIoT化を促進する無線通信技術

物流・製造業のIoT化を促進する無線通信技術のひとつとして「LPWA」が注目されています。低コスト・低電力でありながら長距離通信を可能とする技術であり、5G並みの通信ができることで有名になりました。
本記事では、このLPWAについて詳しく解説します。物流サービスにおける活用事例にも触れるため、今後の新たな戦略にお役立てください。
LPWAとは?
LPWA(Low Power Wide Area)は、LPWAN(Low Power Wide Area Network)と呼ばれることもある無線通信技術です。
低コスト・低電力な通信手法であることが最大の特徴であり、同じくコストや電力がかからないBluetoothなどよりも広範囲の通信が可能です。通信方式や通信環境によって多少前後しつつも、その範囲は最大数十kmまでおよびます。
特にIoTの構成要素として注目されており、GSM方式(第2世代携帯電話機の通信方式規約の一つ)の携帯電話システムに関する標準化などをおこなっている業界団体では、2022年中には50億台のデバイスがLPWAに接続されるだろうという予想も立てられました。
スマートフォン・タブレットの普及や便利なアプリケーションの開発に伴い、今後さらに世界中でニーズが高まると言われています。
LPWAと他の通信方式との比較
LPWA以外にも、無線通信技術は複数存在します。例えば3G・LTE・5G・Wi-Fi・Bluetooth・NFCなど、身近なデバイスで使用しているものも多いでしょう。
このように多数存在する無線通信技術のなかで、LPWAは他の通信方式よりも低速度通信であるため、電力消費を抑えられることが特徴です。乾電池1本で数年単位の稼働ができるタイプも展開されています。
また、Wi-FiやBluetoothより広域で接続できることも魅力です。
その分、送信容量が制限されていたり、通信速度が少し落ちたりすることがありますが、高スペックな通信ではなくIoTなどをメインに考えるのであれば、大きな支障が出ることはほとんどないでしょう。
コストパフォーマンスにも優れ、年額100円から利用可能なLPWA端末もあります。
LPWAとIoT
前述の通り、LPWAはIoTと相性のよい無線通信技術です。ここではLPWAとIoTの関係性について解説します。
物流・製造業界に欠かせないIoT
IoT(=Internet of Things)とは、「モノのインターネット」のことを指します。代表的な例として、製造業界におけるIoTがあげられます。
例えばセンサーを内蔵した機器が収集したデータを、インターネットを介して遠隔で確認できたり、遠隔制御をおこなったりできるのも、IoTによる効果です。
ロボティクス・AI・M2Mと連携することでスマートファクトリーが実現し、限られた人的リソースでも最大限のパフォーマンスを発揮できるようになりました。
同様に物流業界でもロボティクスを活用した倉庫作業・配送作業の自動化が進み、人がピッキングのために広い倉庫を歩き回らずとも済むようになっています。
遠隔地からの情報を取得・操作が可能になったことで、新たに実現できたことは非常に多いです。物流・製造業界以外にも、医療・農業・交通などでもIoT化による業務効率化が進んでいます。
LPWAで叶えるIoTの未来
これまで電波を遠くまで飛ばすには、4Gもしくは5Gなどの通信規格に対応した環境が必要でした。しかしコストが高く無線モジュールも高額であり、ランニングコストに通信料が加算されることを懸念する声も多かったのです。
しかしLPWAは一般的な電池でも数年から10年ほど運用できる省電力性があり、かつ数kmから数十kmの通信が可能な広域性を保有しています。
LPWAの誕生でIoT化は一気に加速し始め、今後電源ケーブルの敷設が難しい屋外・山間部などにもIoTの手が伸びていくでしょう。
従来の技術ではカバーできなかったスキマを埋めるような形式で、LPWAが広がると予想されています。
物流・製造業界におけるLPWA
最後に、物流・製造業界におけるLPWAの活用方法を紹介します。
実際の企業事例をピックアップしているため、自社にも活用できそうな手法がないか参考にしてみてください。
京セラコミュニケーションシステム(KCCS)のLPWA「Sigfox」
京セラコミュニケーションシステム(KCCS)では、グローバルIoTネットワークである「Sigfox」を活用しています。Sigfoxは、LPWAのなかでも特に少量かつ低速のデータを扱うのに長けており、消費電力の少なさや通信料金の安さが注目を浴びることが多くなりました。
Sigfoxを活用した物流ソリューションのひとつとして、カゴ車・コンテナ・パレットなどの物流資材の最適利用があげられます。
資材の現在地を可視化し、空きがあれば近くの荷物を運搬するよう調整することで、滞留や資材の紛失を予防できるようになっています。
また、トラックのなかの温度管理が適切か都度チェックしながら、異常の特定・記録・分析・改善によるパフォーマンス向上を狙うことも可能です。
シンプルで低消費電力・低コストであるLPWAは、大量のモノを運ぶ物流には適していると言えるでしょう。
参考:https://www.kccs.co.jp/sigfox/service/
“ELTRES”を活用したAIによる配送ルートの最適化
ELTRESは、IoTネットワークに活用できる新しいLPWAの規格です。LPWAの特徴である「低コスト」はそのままに、移動体への対応を強化した規格として誕生しました。
例えば、LPWAとAIを相互に活用した「動く倉庫」では、半径3km圏内であれば20分以内に荷物を届けられるよう自動で配送ルートを計算します。
現在は福岡県博多区を中心にサービスを提供していますが、今後エリアの拡大が予定されていることからも、ニーズの高さが伺えます。
デンソーエスアイ:かんばん方式の電子化
デンソーエスアイでは、「かんばん」を投函するポストを小型のカードリーダー「電子ポスト」に置き換える取り組みをしています。
※かんばん:商品名・品番・保管場所などの情報が記載された商品管理カード
「かんばん」方式の電子化とは、部品・資材の発注量を最適化するために考案されたシステムであり、従来は簡単な板切れを使っていました。
現在は多くの工場でかんばんの電子化が進んでおり、デンソーエスアイでも導入に踏み切っています。この取り組みにより、かんばんの回収作業廃止・かんばん紛失リスクの低減などの効果が現れました。
ネットワークシステムにはLPWAの一種である「LoRaWAN」が採用されており、低コストでの運用が叶うこともメリットのひとつとなっています。
参考:https://www.denso-si.jp/solution/system/poc4.html
凸版印刷:環境データを自動収集
凸版印刷では、自社工場における排水の水位・水素イオン濃度など、環境データを自動収集する取り組みを始めています。工場内の細部に至るまでLPWA規格のひとつである「ZETA」が張り巡らされており、接続されたセンサーの反応に応じてデータが集まるようになりました。
収集したデータはクラウド型システムプラットフォーム「ZETADRIVE」に蓄積され、監視システムと連携してアラートを鳴らすことも可能です。
LPWAは、業務効率化・パフォーマンス向上だけでなく環境対策にも貢献していることがわかる事例です。
参考:https://www.toppan.co.jp/electronics/solution/zeta/
今後さらに広がるLPWAの可能性
LPWA(=Low Power Wide Area)は、低コスト・低電力・広域性を同時に叶えられる通信方式です。特にIoT化が急務とされる物流・製造業界において、LPWAは欠かせない存在となっていくでしょう。
LPWA導入の目的は、業務効率化・パフォーマンス向上・コスト削減だけとは限りません。他社より優位なサービスを提供することによる市場での生き残りや、環境対策などに役立てることによる自社イメージ向上施策にも使われており、多彩な用途があります。
今後さらにLPWAの可能性が広がることを考え、早い段階で導入の検討に踏み切ることをおすすめします。