モノ消費からコト消費、さらにトキ消費へ!? 体験に価値が生まれる理由とは
時代の変化に伴って、市場・消費者のニーズも変化しています。中でもインターネットの普及などによる、「モノ消費からコト消費」への変化が挙げられますが、近年では「トキ消費」という言葉にも注目が集まっています。
消費者ニーズの変化に合わせるように、企業や店舗も「コト」に焦点を当てた商品・サービスの開発が進んでいます。今回は、そんな消費行動の変化について、背景や事例を含め紹介します。
市場ニーズが「モノ」から「コト」へ
では、モノ消費とコト消費とはどのような違い、特徴があるのでしょうか。両者は以下のような消費傾向を指します。
コト消費:アクティビティやイベント、リゾートホテルなど、所有では得られない体験や経験に価値を見出す消費傾向のこと。
モノ消費は従来どおり、商品そのものに価値を見出し、購入することですが、コト消費は、モノを所有することではなく“体験”に価値を見出します。では、どのような“体験”を指すのでしょうか? コト消費は7つに分類できるとされています。
7つのコト消費
純粋体験型コト消費
旅館やホテルなどの宿泊、スキーやラフティングなどのアクティビティといった、企業が提供する商品=体験となっている消費のことを言います。体験を通して、そこでしか得られないモノを販売するなど、「モノ消費」につなげる効果もあります。
イベント型コト消費
デパートなどの商業施設でイベントを行うことを言います。イベント自体で利益を得ることが目的ではなく、イベントで集客したのち、モノ消費につなげることを期待しています。
アトラクション施設型コト消費
ショッピングモールなどの商業施設に、映画館や美術館などのアトラクション施設を併設することで集客することを言います。
時間滞在型コト消費
居心地のいい空間を創出した商業施設にて、長時間滞在してもらうことを目的とした消費です。ただ長時間滞在してもらうことがゴールではなく、滞在中にモノ消費へつながるような仕組み作りが重要になってきます。例えば、カフェと併設した本屋で、ゆっくりと本を選ぶことができる、などがこれにあたります。
コミュニティ型コト消費
商業施設内でコミュニティを形成し、モノ消費へとつなげる消費です。例えば、サーフィンショップでサーファーが集まり、コミュニティを形成し、情報共有をするなどが挙げられます。
ライフスタイル型コト消費
商業施設や店舗が消費者のライフスタイルに沿った商品を提供することで、ファンになってもらう消費を言います。インテリアショップや雑貨屋などが、多様化する生活者のライフスタイルに合わせて、さまざまな商品を組み合わせて訴求する例があります。
買い物ワクワク型コト消費
店内のレイアウトや雰囲気、商品の魅力が伝わるような演出をすることで、買い物自体がワクワクするような仕組みを作る消費です。モノ消費とのつながりが強いコト消費と言えるでしょう。
このように場所や目的によって、消費者に提供する体験が変わってくるコト消費。経験や体験により価値を見出すことで、商業施設や店舗にとっては、最終的にモノ消費へとつなげるための手段となっていると言えます。
ではなぜモノ消費からコト消費へと消費傾向が変化したのでしょうか。その背景と理由を見ていきましょう。
<参考文献:川上徹也著「「コト消費」の嘘」/角川新書>
コト消費が広まった背景とは
消費傾向がコト消費に変化した背景には、国内における消費の成熟化が挙げられます。モノが少なかった時代には、人々の生活を豊かにするようなモノやサービスが求められ、「商品自体の機能が価値」とされていました。しかし、経済成長などで多くの人にこれまで必要とされてきたモノが行き渡ったことで、モノ自体への意識が薄れるようになりました。いつでも必要なモノが手に入るようになった結果、商品の機能による価値よりも、商品購入だけでは得ることができない、体験や経験などの「コト」に対する消費意欲が高まったのです。
インバウンド客は特に顕著
モノ消費からコト消費への変化は、国内の消費者だけではなく、インバウンド客でより顕著に見られます。従って、今後さらに増加することが予想される訪日観光客の消費傾向を理解することが重要になってきます。訪日観光客のコト消費への変化には2つの背景が挙げられます。
インバウンドのニーズや満足度
観光庁が行った2017年における年間の「訪日外国人消費動向調査結果及び分析」によれば、訪日外国人の日本への来訪回数は、「初めての来日」が38.6%、「2回以上の来日」が61.4%という結果になりました。また同調査において、「今回したことと次回したいこと」について聞いたところ、「次回したいこと」については、「日本食を食べること」が55.4%ともっとも高く、次いで「ショッピング」(43.2%)、「自然・景勝地観光」(42.9%)、「温泉入浴」(41.2%)など、上位にコト消費が挙げられました。また同時に「今回の日本滞在中にしたことの満足度」では、「日本の日常生活体験」(91.3%)、「日本食を食べること」(91.2%)、「テーマパーク」(91.0%)、「スキー・スノーボード」(90.8%)、「その他スポーツ」(90.5%)の順となっており、コト消費が上位を占めています。
このようにインバウンド客は、6割以上がリピーターであり、お土産などでモノ消費はするものの、日本でしか得ることのできない体験や経験などのコト消費を求め、来日していることが推察されます。
<参照元:観光庁「訪日外国人の消費動向」>
インターネットの普及
これまで訪日しないと購入できなかったモノも、インターネットの普及によりネットショッピングで遠く離れた場所から購入できるようになりました。つまり、モノ消費への欲求がネットショッピングによって解消され、実際に日本を訪れなければ満たされない、体験や経験といったコト消費への欲求が高まっていると言えます。
コト消費の事例
では、コト消費にはどのような事例があるのでしょうか。代表的な事例を紹介します。
着物体験・寿司作り体験など
インバウンド客が来日して行う代表的なコト消費に着物体験があります。日本伝統の色鮮やかな着物に身を包み、歴史ある街並みを観光するのはインバウンド客の定番コースです。また、日本固有の伝統や歴史を体験できるコトとして、寿司作り体験も人気です。一方でアニメや漫画などのカルチャーは、レアな商品を手に入れることに価値を見出す傾向が強いためモノ消費と言えるでしょう。
THE OUTLETS HIROSHIMA
2018年4月に広島市にオープンしたイオンモールが運営する「THE OUTLETS HIROSHIMA」。単なるアウトレットモールではなく、屋内スケートリンクなどのアミューズメント施設、シネマコンプレックスなどのエンターテインメント施設を設置。地方創生を図る観光型施設として、モノ消費とコト消費を融合した一大施設を展開しています。
<参照:都市商業研究所>
AR、VR、MRを使った観光誘致
最新テクノロジーを駆使した仮想現実を利用したコト消費も進んでいます。ゲームや映画などに活用されることが多かった仮想現実ですが、観光庁では観光コンテンツでの活用を推進しています。例えば、訪日予定のないユーザーに向けて、VRコンテンツを通して日本の魅力を伝えたり、訪日中のユーザーには歴史的建造物の当時のイメージを再現して見比べるサービスを提供したりと、現地でしか体験できない価値を提供する施策を推進しています。
<参照:国土交通省 観光庁「最先端ICT(VR/AR等)を活用した 観光コンテンツ活用に向けたナレッジ集」>
さらに「トキ消費」へ!?
ここまでコト消費について説明してきましたが、近年のスマートフォンやSNSの普及により、消費傾向は「トキ消費」へと変化しようとしています。コト消費に消費傾向が変化してから、消費者は自らが「コト」を体験・経験することを求めていましたが、スマートフォンの普及を機に、自分ではなく人々が経験したコトに関する情報をSNSで収集することが可能になり、疑似体験できるようになりました。つまり、コト消費への欲求がSNSで満たされるようになったと言えます。そこで近年注目されているのが「トキ消費」です。
トキ消費とは、ハロウィンやフェスなど、その瞬間・場所・人でしか味わうことのできない価値である「トキ」の共有を言います。何度も体験・経験できる「コト消費」では満たすことのできない欲求・価値の体験が可能です。トキ消費には以下の3つの特徴があります。
非再現性・限定性
時間や場所が限定されており、その時その場所でしか体験することができないこと。
参加性
参加すること自体に価値があり、参加することが目的となる。
貢献性
参加した成果が分かり、その貢献を実感することができること。
代表的な事例として、サッカーワールドカップを挙げることができます。4年に1度の大会を現地で応援するという「非再現性・限定性」があり、スタジアムで声援を送るという「参加性」もあります。そして、応援しているチームが勝利したときには“一緒に戦った”という「貢献性」も実感できるでしょう。またテーマパークが開催するハロウィンイベント、音楽フェスやクラウドファンディングなども「トキ消費」にカテゴライズすることができるかもしれません。
<参照:生活総研>
まとめ
モノからコト、そしてトキへ。生活者や市場のニーズの変化を解説してきました。重要なのは、その3つの消費傾向の1つに力を入れるのではなく、ニーズを汲み取り、モノ・コト・トキをうまく融合させることです。もともと“限定商品は売れる”というデータは存在しますが、これはモノ消費とトキ消費の両方の特徴を含んでいると言えます。つまりトキ消費という言葉は最近の言葉ではありますが、元から概念的には存在しているのです。
ただ現在は「トキ消費」の傾向が強く、SNSやデジタル技術の発展が強い影響を及ぼしています。企業や店舗は、変化の早い市場のニーズをより敏感に把握する必要があると言えるでしょう。