三現主義(5ゲン主義)は古い?現代における重要性
「三現主義」は、ビジネスにおいて有名な考え方であり、企業の成長を促す重要な要素です。更にそれを発展させた5ゲン主義という言葉も注目されています。
誰もが手軽に情報を共有できる社会となり、ビジネスシーンでも技術革新やテレワークの普及による業務効率化が進む現在だからこそ、三現主義や5ゲン主義は重視すべき考え方となっています。
そこで本記事では、三現主義・5ゲン主義の概要や重要性について解説します。
三現主義とは?
三現主義とは、「現場」「現物」「現実」の3つを重視する考え方のことです。情報社会となった今日では、遠方にいてもあらゆるデジタルツールで情報を共有したり指示を伝えたりできますが、中には現場へ足を運んで初めて気付く課題もあります。
自分で「現場」を訪れ、「現物」に触れ、「現実」を把握した上で物事を考えることにより、正しい判断や問題解決につながるケースも多いため、三現主義はあらゆるビジネスで非常に有効な考え方です。
例えば独自性を追求した開発を行っても、顧客ニーズがなければ独りよがりで売上につながらない製品となりかねません。現場に足を運び、顧客ニーズや市場の流れを実際に把握した上で開発に反映させることで、独自性を保ちつつ顧客が欲しいと思える製品を世に送り出すことができます。
三現主義を掲げる国内企業
三現主義は、業界や職種を問わず掲げられる汎用性の高さが特徴です。現場や現物と言うと製造業をイメージしがちですが、実際は飲食店や小売店でも取り入れられています。
国内の例を挙げると、ホンダ、トヨタなどの自動車メーカーや、花王などの消費財メーカー、セブンイレブンといった小売業も三現主義を実践している企業です。開発の現場を体験することはもちろん、小売店などの場合は、実際に店舗で買い物を体験して初めて、隠れていた課題に気付くことがあります。
5ゲン主義とは?
三現主義をより発展させた考え方として、5ゲン主義も注目を集めています。5ゲン主義は現在経営コンサルタントとして国内外で活躍する古畑友三氏が電機メーカー時代の経験を参考に提唱したもので、自分たちのあらゆる行動や判断を、頭だけで考えた論理や経験だけでなく、現実に起こった事実をもとに推論・検証していく考え方です。三現主義にもとづいて課題を把握し、更に5ゲン主義を取り入れることで、問題解決能力の向上を図ることができます。
参考:プロジェクトX 福井大学版「5ゲン主義の提唱者、モノづくり日本の再生を期す」
三現主義との違い
三現主義との大きな違いは、意識すべきポイントが従来の3つから5つに増えたことです。5ゲン主義は、三現主義が掲げる「現場」「現物」「現実」の3つに、新たに「原理」「原則」が加えられています。原理とは物事を成り立たせているメカニズムや法則を指し、原則とは多くの場合にあてはまる規則や決まりを指します。
課題に対する取り組みなど多くの意思決定においては、「原理」や「原則」を理解した上で行うことが重要となるため、5ゲン主義が取り入れられることがあります。
三現主義(5ゲン主義)は古い?現代における重要性
三現主義を意識した経営は、さまざまな業種で実践されています。一方で、技術革新により現地に足を運ばなくとも生産状況や従業員の稼働状況を把握できる今日では、従来のように現場へ直接訪れる必要性を感じていない方も多いのではないでしょうか。
例えばセンサーカメラを設置して、生産ラインや従業員の稼働状況を監視するシステムを活用すれば、現場を訪ねなくともデータや映像で状況を把握したり従業員に適度な緊張感を与えたりすることができます。最近はシステムによって、稼働率などをもとに最適な生産計画の作成や在庫管理もできるため、業務効率化や生産プロセスの最適化に関して人的工数を減らせるケースもあるでしょう。
こうしたことから情報社会の今日においては、現場を直接見て判断する考え方は古いのでは、と思いがちですが、実は現代のビジネススタイルにこそ三現主義や5ゲン主義が求められています。
三現主義はコロナ禍でも重要?
長期にわたる新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの企業がリモートワークを導入するに至りました。企業や部門によってはリモートワークのほうが、生産性が向上したという声がありますが、一方で人の動きが制限されることにより、「現場」で「現物」に触れて「現実」を把握する三現主義の基本的なスタンスからはほど遠い働き方をせざるを得ないケースもあります。
コロナ禍ゆえの制約が多く、リモートワークが普及した平常時とは異なる業務環境の中で、三現主義の再現が多くの企業に求められています。技術革新により手軽に情報が入手できる現代だからこそ、三現主義を意識した課題の把握や問題解決は重要です。
IT化が進む今こそ見直すべき三現主義
インターネットの普及により、経営層や管理職をはじめ多くの人がデータのみで物事を判断できる環境になりました。
業務効率化や生産性向上に役立つさまざまなIT技術ですが、あくまで取得できるデータはセンサーが感知できる範囲やシステムが解析できる部分など限定的なものです。三現主義を取り入れるためには、データ取得や生産ライン稼働のためのシステム導入に加えて、現状を「見える化」するような時代と環境に適した工夫が求められます。
リモートワークの普及によって直接現場を訪ねる必要がない場合でも、生産ラインのマシンのみならず、工場やライン全体を映すカメラを導入したり、現場に設置したカメラを遠隔操作で任意の方向に動かせるよう設定したりと、三現主義の考え方を意識した環境作りが必要です。
コロナ禍以前と比較して容易に現場へ訪ねることができない状況下であっても、このように三現主義の考え方を強く意識して工夫を凝らすことが、さまざまな制限の中でのいい意思決定につながります。
時代に合った三現主義の事例
前述のとおり、インターネットの普及やコロナ禍など多くの影響がある今日においても、工夫次第で三現主義を取り入れた経営を行うことができます。重要なのは従来の方法にこだわらず、時代に合った方法を積極的に採用して、あらゆる制限の中でも三現主義の考え方を最大限に活かすことです。
ここでは、すでに積極的な創意工夫で時代に合った三現主義を実現している2社の事例を紹介します。
オムロンによる新・三現主義
オムロンは保全現場での三現主義にもとづいた革新を、「新・三現主義」として進めています。それ以前は、機器の保全は熟練者の勘やコツ、ノウハウといった経験による判断が多く、一部の保全員に依存している状態でした。
保全員の経験に頼っていた技術を状態監視機器としてパッケージ化し、センシング手段の確立やアルゴリズムにもとづいたパラメーターの変換で、特定の人員に頼らず誰でも同様の手順で数値を判定・判別できる環境を整えました。「現物」をデータで分析して「現実」をリモート下で判定できる環境にしたことで、今では保全作業が属人化されることなく、適切なタイミングで現場作業を実施できています。
状態監視機器の活用による保全作業のリモート化は、コロナ禍やリモートワークの浸透といった時代の変化にも対応しつつ、既存の三現主義も大切にしている事例と言えます。
参考:オムロン「新・三現主義での現場革新 デジタル技術による最新リモート監視」
「現地現物主義」を貫くトヨタ
日本を代表する自動車メーカーのトヨタは、社長自身が率先して現地現物主義を実行している企業です。トヨタが掲げるミッションに対して、社長自身が「現場で、現地現物で仕事をすることで共有できる」と考えており、常に現場に一番近い社長を目指し、今でもそれを体現し続けています。
就任以来、社長が現地現物主義を貫くために行っている施策のひとつが、毎週必ず実施する朝ミーティングです。取締役や執行役員に加えて、各本部のトップが参加するミーティングで、トヨタに関する経営課題や直近の話題などを自由にディスカッションしながら経営陣の価値観をすり合わせることが目的です。
資料を提示したり決裁を行ったりすることはありませんが、経営陣一人ひとりが共通の目線を持ち、ミッションを掲げるため、各現場が一丸となって企業成長に貢献できる環境となっています。
このように定期的に経営陣が主体となって目線や価値観をすり合わせることにより、「現地」や「現物」の定義を適宜見直しつつ、根底にあるトヨタらしさは変えない姿勢を貫いています。
参考: Automotive Media RESPONSE『トヨタ社長「改めて現地現物の定義をしっかりすることが必要」』
適切な経営判断を下すための「5ゲン主義」に向けて
情報化社会であらゆる事象に対してデータ分析が可能となった今日では、ビジネスを支える技術も進歩し続けていますが、3つの「現」を重視する「三現主義」の考え方を根底に置いて行動すべきという点に変わりはありません。
更に具体的かつ適切な判断を下すためには、「原理」「原則」を視野に入れた5ゲン主義を意識することが大切です。
特に最近では、コロナ禍やリモートワークの普及などデータに頼りがちになる環境が続いており、このような時代の変化に対応していきながら、改めて「現場」「現実」「現物」を重視する「三現主義」について見直していく柔軟さが求められるでしょう。