ICT化とは?働き方を変える教育・保育現場での活用事例
私たちは「第4次産業革命の渦中を生きている」とも言われています。第1次産業革命は、人の手から機械への転換を推し進め、産業構造そのものを大きく変革する契機となりました。その後、電力の活用による第2次産業革命、コンピュータの登場による第3次産業革命を経て、AI(人工知能)、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、ビッグデータなどを組み合わせる経済社会に向かっています。モノ作りや働き方に大きな影響力を及ぼすIoTやICT抜きには語れなくなっています。
2016年頃から、政府主導によって始まった働き方改革をバックアップする重要なワードを読み解きつつ、ICT化で変わる働き方にスポットライトを当て、お話しします。
ICTとは?IT、AI、IoT、RPAとの違いと定義について
※イメージ画像となります
内閣府の発表した「平成30年版高齢社会白書」では、国内の将来推計人口は2053年時点で1億人を割った数字が公表されています。政府が掲げる働き方改革とは、言い換えれば「少ない労働人口でも効率的に日本経済を回すための戦略」。その戦略を支えるテクノロジーとしてICT、AI、IoT、RPAが、労働の効率化や多様化を実現すると期待されています。これらは導入の規模にかかわらず、すべての産業や企業で必要不可欠となっていきます。最近よく耳にするICT、IT、AI、IoT、RPAなどのキーワードですが、意外とそれぞれの意味や定義について知らない方が多いのではないでしょうか? 詳しく見ていきましょう。
ICTとITの違いは?
ICTは「Information and Communication Technology=情報通信技術」と訳され、コンピュータを使った情報処理や通信技術の総称です。似た言葉にIT「Information Technology=情報技術」があり、このワードはPCのハードウェアやアプリケーション、OA機器、インターネットなどの通信技術、インフラといったさまざまなものを含んでいます。
意味するところは似ていますが、ITはコンピュータ関連の技術そのものを指し、ICTは情報の伝達、技術の活用方法、またその方法論といったものを指す用語です。スマートフォンやIoT(後述)が普及し、さまざまなものがネットワークにつながって手軽に情報の伝達、共有が行える環境ならではの概念です。
建機メーカー、コマツでは、ICTを活用したKomConnect(コムコネクト)と呼ばれる最新システムを開発しています。工事現場にドローンを飛ばして3次元測量データを取得し、このデータを読み込んで作業計画やシミュレーションに利用できるものです。サポートセンターからオペレーターをガイドすることで、誰でも簡単に現場作業を進めることも可能です。人件費の高騰と人手不足の深刻な状況を解決する手段として建設業界から注目を浴びています。
<参照元:http://www.komatsu.co.jp/CompanyInfo/press/2015012011372914140.html>
すでにビジネスで実用化されているAI=人工知能
AI(Artificial Intelligence=人工知能)は、蓄積したビッグデータを元に学習することで大いなる可能性を秘めたシステムです。身近な例としては、iPhoneに内蔵された音声アシスタントSiri、Google Home、Amazon Echo、ソニーのaiboといったところでしょうか。
IBMが開発したIBM Watson®(通称:ワトソン)は、クイズ番組で賞金100万ドルを獲得したことで有名になりました(IBMは、人工知能ではなく“Augmented Intelligence=拡張機能と定義)。クイズに出題されそうな情報をインプットすることで、機械学習や統計の解析などによって正解を導き出すという仕組みです。すでにワトソンの機能とビッグデータを組み合わせた利用がスタートし、医療現場ではがん治療のガイドラインや医学文献、公開データなどを分析し、医師のサポートをしています。
野村総研はオックスフォード大学との共同研究で、今後10年から20年の間に日本人の49%はAIに仕事を奪われるだろうというショッキングな結果を発表しました。AIの進化は、社会構造を劇的に変えるとも言われています。人間を単純作業から解放するだけでなく、いわゆるクリエイティブな仕事もAIに取って代わられる日が来ると言う人もいます。一方で、産業構造の変革は新たな仕事や雇用を創出する可能性も含んでいます。
<参照元:
https://www.ibm.com/watson/jp-ja/
https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf
>
日常生活に溢れている“モノのインターネット”=IoT
「Internet of Things(インターネット・オブ・シングス)=IoT」はすでに日常生活に深く入り込んでいるテクノロジーのひとつです。あらゆるモノがインターネットにつながり、データを送受信して情報を受け取ったり、遠隔地から機器を操作したり、さまざまなサービスを受けることを可能にしています。たとえば、スマートスピーカーなど、自宅にあるIoT家電で子供の帰宅やペットの様子を確認したり、職場からスマートフォンでテレビの録画予約をしたりできます。エアコンを遠隔操作することで帰宅時間に合わせて室内を最適な温度に保つこともできます。
前出の建機大手コマツの取り組みはIoTの先端事例のひとつです。KOMTRAX(コムトラックス)というシステムを使って、全世界に展開する建機40万台をネットワークで繋ぎ、常時監視、遠隔制御するテクノロジーです。GPS(全地球測位システム)で建機の所在を個体認識し、盗難や暴走などトラブルが発生すれば遠隔操作で即時にエンジンカットできます。また稼働状況などをモニターすることで新規リースの営業に繋げるなどのメリットをもたらします。
IoTの活用により、インターネット上にはネットワークに接続されたデバイスから膨大なデータ(ビッグデータ)が集まるようになります。総務省では一定のルールのもとにさまざまな分野のデータを収集して活用することを目標としています。また、それによってオフィスでの生産性や家庭生活での利便性が向上すること、これまでにない革新的なIoT機器やサービスを開発することも目指しています。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は、定期的なチェックやデータの転記作業など、ルーティン業務を人に変わって自動処理するものです。2017年には、三菱UFJフィナンシャル・グループが国内の事務作業をRPAで自動化することで9,500人相当の労働量削減を目指すと発表したことが話題になりました。この数字は同行の国内従業員の約3割を占め、その労働量をよりクリエイティブな仕事に振り向ける方針を強調しました。
<参照元:http://www.komatsu-kenki.co.jp/service/product/komtrax/>
<参照元:https://www.boj.or.jp/announcements/release_2018/data/rel180305a2.pdf>
政府も推進するICT化の現状
2019年4月から「働き方改革関連法案」が順次施行されます。この法案には「長時間労働の是正」、「多様で柔軟な働き方の実現」、「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保のための措置」が具体的に盛り込まれています。背景には、労働環境を見直し、生産性を向上させたいという政府の方針があります。
少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少、育児や介護との両立といった働く側のニーズの多様化への対応が迫られています。企業はその規模に関わらず、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが必須であり、こうした喫緊の課題に資するシステムがオフィスのICT化です。
フリーアドレス、ペーパーレス、テレワークを導入している総務省
働く現場のICT化は、その本丸である総務省で始まっています。総務省行政管理局では、国家公務員のワークスタイル変革の一環として、オフィス環境を抜本的に改修し、これまでの紙中心の働き方を見直すなどの取り組みをしています。ポイントとしては、個人の座席を固定しないフリーアドレス制を導入し、無線LANなどのICTを活用することで、パソコンを持ち運んでどこでもペーパーレスで打ち合わせを可能にしています。またICTを利用し、場所や時間に捉われない柔軟な働き方が可能となるテレワークを推進し、ワークライフバランスの実現、女性・高齢者・障がい者などの就業機会の拡大、UJIターン・二地域居住や地域での企業などを通じた地域活性化などの成果をあげています。
企業でのICTツール利用に関しては、「経費精算」や「勤怠管理」、そして「WEB会議システム」の導入率が高いという「IDC Japan」の調査結果があります。データ管理が容易になり、業務負担軽減も見込めるICT化ですが、一方でデータ情報流出のリスクをはらんでおり、個人情報保護などセキュリティ上の対応が求められ、急務であるといえます。普段何気なくデータのやり取りに使っているUSBメモリやハードディスクも、職場で使うものは暗号化だけでなくウイルス対策にも対応したアイテムを選ぶ規定を設けるなど、新しいルール作りも並行して行う必要があります。
また働き方改革のために導入したWi-Fiから情報漏えいしたケースが後を絶たないことから、クラウドストレージ全盛のなか再びNASが脚光を浴びています。NASだとサーバーと違って扱いが簡単で、企業の規模によってHDDボリュームの増減が可能。ファイル共有だけでなく、機密データを保管するにも適していると、中小企業を中心に根強い人気を誇っています。ツールやデバイスに優劣をつけるのではなく、業務や用途に合わせ、クラウドストレージを活用するプロジェクト、クラウドとオンプレミスの連携で走らせるタスクといった具合に、多様化するとリスクヘッジにつながります。
加速する教育現場と保育現場のICT化の事例
企業での業務効率化、ICT化は急務となっていますが、教育現場や保育現場でも政府の旗振りのもと、改革がすすんでいます。それぞれの背景や現状を解説します。
保育現場でのICT活用
保育の現場では、地域差はあるものの、すでにICT化が浸透しつつあります。保育士不足や待機児童問題を解決するために導入され、保育の質を向上させるとともに、保育士の確保やその労働環境を整えるのに大きな役割を果たしています。
保育園の園児数と保育士数には規定があり、保育園を作っても保育士の数が足りなければ定員を下回る園児しか受け入れられません。一方で保育士の賃金の低さや時間外労働、責任の重さなどから離職する保育士も多いという現状では、限られた保育士数で保育の質を向上させるために、保育以外の事務作業などを効率化する必要があります。
ICT化は保育士の業務負荷を軽減する効果があると期待されており、厚生労働省は保育士不足や待機児童問題を解決するため、ICTシステムを導入する保育園に対して補助金を出すなどして、保育現場のICT化を進めています。
ICT化によって、児童ごとに異なる保育料の計算が自動化できます。タッチパネルやICカードを利用して登降園時間を打ち込むシステムを使えば、正確な保育時間の反映が可能となり、手計算による請求金額ミスの防止も図れます。保育士の勤怠管理を行う以外に、シフト管理や作成、残業時間の管理もできます。保育士同士の情報共有や、保護者への連絡帳、お知らせの配布をネットワーク上で行えば、双方の時間的な負担を軽減できます。
教育現場でのICT活用
文部科学省では、「2020年までにすべての小中学校で児童生徒1人1台のタブレット端末などのICT環境を整備し、新たな学びを推進する」という目標を掲げています。
すでに2018年4月からは、児童生徒の情報活用能力の育成や、プログラミング教育の必修化が盛り込まれた新学習指導要領の移行措置が始まっています。これまでは教育の現場のICT化は“一部の先進校だけの話”と考えていた教育機関もその取り組みを本格化する時がきました。「教育のICT化に向けた環境整備5ヵ年計画」では、
“学習者用コンピュータを3クラスに1クラス分程度整備”
“大型提示装置(電子黒板)・実物投影機の100%整備”
など、明確な目標水準が発表されています。
新学習指導要領では、情報活用能力の育成が重要視されています。その背景には今まさに産業のICT化が進み、AIやIoTなどの技術の著しい進化の渦中に私たちが存在している事実があります。子供たちの生活スタイルも変化し、いわばデジタル・ネイティブと呼ぶべき彼ら彼女らに必要とされている教育は、21世紀型スキルを育てることに他なりません。情報活用能力は答えのない問題に対応していくために不可欠なスキルなのです。
ICTを教育に活かすメリットは、時間と場所の制約を取り払って、学ぶ環境を提供できること、豊富な学習コンテンツが利用できることです。これによって、教師の指導スタイル、児童生徒の学びの選択肢が増え、学びの機動力が高くなります。例えば、カメラ付きのタブレットPCで写真や動画を記録することで、生の教材を活かしたレポートの作成や発表が容易にできます。あるいはクラウド型の支援ツールを使ってグループ学習の続きを各家庭で行ったり、宿題を提出したりできます。
ICTを活用した英語教育を例にとれば、ネイティブの音声による教材を使った授業や、海外との交流学習に利点が見いだせます。個々の児童生徒に応じた学習指導および生活指導、学習者の習熟度に合わせた学習内容を提供するアダプティブラーニングが、ICTの活用で促進されます。学習者の主体性を高められるばかりか、指導する教師側の負荷を減らせるメリットもあります。
教育現場でのICT化は、慢性的な過重労働にある現状を改善していく効果も見込めるものです。生徒の情報の管理や校務、授業で使用する資料作成の簡易化、地域を越えての教師の研修などにも活用できる可能性を持っています。
<参照元:総務省「教育ICTガイドブックver.1」>
今後の課題はテクノロジーを使いこなす知識とスキル
今回は教育現場にフォーカスしながら、ICT化を通した働き方の変化について見てきました。企業はその規模や職種に関わらず変革を求められていることが理解いただけたかと思います。
2018年3月に文部科学省が発表した「平成28年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」によると、教育用コンピュータ1台あたりの児童生徒数は5.9人。タブレット型コンピュータは3年で約5倍に増えていますが、ICT機器の稼働率が上がらず、埃をかぶったままという学校もあるようです。その理由のひとつが、教師が授業でどのようにしてコンピュータを活用すればいいのかがわからないという点。教師自身がコンピュータを使った授業を受けた経験がないこともあって、授業のイメージを掴むことが難しいからです。
ICTの活用で大切なことは、単純に紙をデジタルに置き換えるような使用方法ではなく、ICTがあるからこそ課題を解決できたり、改善策が見えてきたりと、テクノロジーを理解する側の応用スキルを高めることも不可欠です。
まとめ
これまで見てきたとおり、世の中は急速にデジタル化が進んでいます。ICT、IT、AI、IoT、RPAなどのテクノロジーやツールの導入が、企業で必要不可欠なのはもちろんですが、教育現場や保育現場も例外ではありません。これまでより少ない人数で、どのように業務をこなしていくか? という視点の他に、未来の世代に向けてより質の高い教育を届けるという考え方が大切です。
いまやデジタル化の環境整備と働き方改革は待ったなしの状況です。課題解決において、最初に行うべきことは、現状の課題抽出です。そして、組織と個人のパフォーマンスを向上できるかどうか、最後にメンバーが使いやすいかどうかをしっかりと検討すると、デジタル化の環境整備や働き方改革を実現できるはずです。
デジタルソリューションを導入したのに宝の持ち腐れといった状態にならないように、しっかりとツールや制度を精査するようにしましょう。