リモートワーク

フリーアドレスとは?メリット・デメリット、導入のステップを紹介

執筆者BUSINESS SOLUTION WEB 編集部
2019.01.23

フレックス制度や時短勤務制度を導入し、副業・兼業やテレワークを認める企業も珍しくなくなってきた昨今、働き方の多様性を尊重する企業が増えています。

厚生労働省が推進する「働き方改革」の後押しもあり、時間や場所に縛られない働き方を目指す環境整備が活発化。従業員が働きやすく、かつやりがいを持って仕事ができるよう、さまざまな施策や制度を柔軟に取り入れる動きが浸透してきました。2018年6月29日に「働き方改革関連法」が成立したことにより、その動きはさらに加速しています。

そのような制度の1つに「フリーアドレス」があります。決まった席を持たず、好きな場所、自由な席で仕事ができるオフィスの在り方で、多くの企業が導入を始めています。では、フリーアドレスの導入によってどのようなメリットがあるのでしょう?また、自社でフリーアドレスを始めるにはどのようなステップを踏み、どのような点に注意すればいいのでしょう? 導入している企業の事例とともに紹介します。

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フリーアドレスとは? メリットと概要をおさらい

フリーアドレスのメリット

フリーアドレスとは、従来のように部署や役職によって座席を固定せず、空いている場所を選んで各従業員が自分の好きな席で仕事をする就業スタイルのこと。オフィス内であれば席はどこでもOKという場合が多く、違うフロアに移動したり、休憩スペースや食堂などで作業したりすることが認められているケースもあります。

では、フリーアドレスを導入することにより、どのようなメリットがあるのでしょうか?

社内コミュニケーションの活性化

座席が自由になることで、部署や役職に関係なく会話をするきっかけが生まれます。普段からチームやプロジェクト外のスタッフとコミュニケーションを取っていれば、実際に業務で関わることになった際も意思疎通がスムーズになり、情報も共有しやすくなります。同じプロジェクトに携わる者同士で席を近づければ、ちょっとした確認やミーティングが容易になり、これまで会議室に移動したり会議用の資料をそろえたりする時間が省け、業務の効率化が図れます。さらにはペーパーレスによるコストカットも期待できます。

イノベーションの創出

職種によっては、同じ場所で同じメンバーと接しているより、違うメンバーとコミュニケーションを取った方が刺激が生まれます。他部署ならではの知見を共有できたり、業務内容や課題を共有したりすることができるため、新しいアイデアが浮かぶことも期待できます。

スペースコストの削減とクリーン化

外回りなどの営業が多く、日中はオフィスに人が少ないという会社こそフリーアドレスに向いています。特定の座席を決めず自由な席に座れるようにすれば、社員全員分の席を用意しなくても、オフィス面積を最低限に抑えて省スペース化を図れます。また社員の増減や部署異動などがあった際も柔軟に対応でき、重い荷物を抱えて席を替える手間をかけずにレイアウトの変更ができます。また固定席ではないため、基本的には私物はロッカーなどに収容することになります。デスク上に資料や収納がなくなるため、自然とオフィスのクリーン化に直結します。

時代に合った働き方の実現

冒頭でも触れましたが、テレワークや時短勤務、フレックスなど、個人の事情や働きやすさに合わせて従業員一人ひとりが働き方を選べる企業が増えてきています。そうした企業はフリーアドレスと相性がよく、両方を実施すると働き方改革のより高い効果が期待できます。座席の様子を見て「先輩や上司がまだ仕事をしているので帰りづらい」といった配慮も不要になり、これまでの意味の薄かった残業を減らし、健全なワーク・ライフ・バランスを保てるようになります。

フリーアドレスの導入事例

フリーアドレスの導入事例

実際に多くの企業が社風に合わせたフリーアドレス制を導入しています。ここからはいくつかの企業のフリーアドレス導入事例をご紹介します。

ヤフージャパン株式会社

2016年10月の移転を機に、東京本社に勤務する全社員を対象に、20フロアある執務エリアの好きな場所で働くことができる全席フリーアドレスを採用。座席のレイアウトをあえて歩きにくいジグザグに配置することで、社員同士のコミュニケーションが活性化しました。壁面の一部が全面ホワイトボードになって、思い立った時にすぐディスカッションできるような工夫が凝らされています。一方で、1人用の座席「集中ブース」や「Quietエリア」を設けるなど、議論したい人と1人で集中したい人がどちらも気持ちよく仕事ができるよう、空間にメリハリをつけていることが特徴です。

参照元:https://techblog.yahoo.co.jp/advent-calendar-2016/non_territorial_office/

カルビー株式会社

以前は各自が好きな座席を選べるフリーアドレスを導入していましたが、席が固定化してしまうことが多かったため、カルビー独自の「ダーツシステム(オフィスダーツ)」を採用。席決め専用のパソコンを使い、4人席の「コミュニケーション席」、1人で集中できる「ソロ席」、さらに集中するため電話・私語が禁止されている「集中席」の中から、その日の自分の働き方に合わせて選択をすると、自動で席が決められるというもの。いずれの席も使用できる最長時間が決まっていて、1日に少なくとも2回は席替えをしなければいけないというルールもユニークです。

参照元:https://www.calbee.co.jp/recruit/about/environment.html

株式会社リクルートホールディングス

2015年4月に独自の「働き方改革プロジェクト」を発足。より濃密なコミュニケーションを支援するためにオフィスのフロアにフリーアドレスエリアを導入しています。在席率調査をもとに席数を75%に設定し、会議室サイズを小ロット化。結果として、全体面積を30%削減することに成功しました。またフリーアドレスより先に実証実験を行っていたリモートワークでは、従業員の生産性向上に成果があったとして、2016年1月より全社員がリモートワークを選択できるようにしています、

参照元:
https://recruit-holdings.co.jp/news_data/release/2015/1224_16416.html
http://www.mlit.go.jp/common/001223965.pdf

株式会社ガイアックス

2017年1月のオフィス移転の際に、“日本で一番シェアを体験できるビル”として、地上6階地下1階のNagatacho GRIDをオープン。2階にガイアックス本社のオフィスが入っていますが、各フロアにはキッズルーム、カフェスペース、レンタルスペース、コワーキングスペースなどの空間が広がっています。ガイアックス社員はビル内のどこで働いてもよいことになっており、他企業やフリーランスの方にも入居が可能となっています。

参照元:
https://grid.tokyo.jp/
https://www.gaiax.co.jp/blog/nozawa_01/

このように、企業によってさまざまなルールのもとでフリーアドレスは導入されています。いずれのケースでも言えることは、初めから成功したわけではなく、トライ&エラーを繰り返していく中で現在の形にたどり着いたということ。新たな制度を社内に浸透させていくためには、根気よく一つひとつの課題に向き合い解決していく時間が必要です。

導入時のポイントとステップ

導入時のポイント

フリーアドレスを導入する際は、どのような点に気をつければよいのでしょう?ここではフリーアドレス導入時の注意点と、導入ステップをご紹介します。

●STEP1: 意識改革と目的共有
コスト削減やスペースの効率化を目的に、トップダウンで一方的にフリーアドレス制を取り入れてしまうと、働きやすい環境構築という意味から逸れてしまうでしょう。新しい制度に対し、従業員に柔軟かつ積極的に行動してもらうためには、トップやマネジメント層から従業員全体に目的共有を徹底する必要があります。導入の前に、座席の運用率などを調査し、「何のためにフリーアドレスを取り入れるのか?」という目的を説明しつつ進めると、社内の理解が得られやすくなります。

●STEP2: パイロット部門の選定、トライアル運用
フリーアドレス導入の検討が始まっても、いきなり全社でスタートするのは避けた方がいいでしょう。まずは特定の部署・チームなどを選定し、チームアドレス、グループアドレスでトライアルをします。その時点で明らかになった問題箇所があれば、都度対応するようにしましょう。環境が変わることに不安を持つ従業員には、フリーアドレス制を前向きに捉えるような働きかけが必要です。社内で制度導入に向けたセミナーやワークショップを開催することも有効です。

●STEP3: 必要なICT環境やオフィスレイアウトの変更
フリーアドレスを導入するには、無線LANの完備、持ち運びやすいノートパソコンやタブレット端末の使用など、ICT環境の整備が不可欠です。席を固定しないようなルールや、企業カルチャーにフィットするような仕組みを決め、それに沿った社内レイアウトの変更も必要になります。完全な自由席だけでなく、集中用のスペース、コミュニケーション用のスペースなど、用途別のエリアも必要に応じて設置を検討。働く人の目線で取り組むことが、業務の効率化だけでなく、環境改善ももたらします。

●STEP4: 運用
実際にフリーアドレスを導入しても、そこで終わりではありません。運用していく中で「こうしてほしい」という要望や新たな課題は当然発生します。ビジネス同様、最適化を図るため、PDCAを回しながら運用していく姿勢が必要になります。

“デメリットも存在する”と理解しよう

企業や業態によって、フリーアドレスというカルチャーがうまく機能しない場合もあります。フリーアドレス導入によって生じる可能性のあるデメリットは下記のとおりです。

・決まった自席がないため従業員の帰属意識が下がる
・どこに誰がいるかわからないため勤怠管理が難しくなる
・業務に集中できず生産性が上がらない
・レイアウト変更による機器入れ替えでコストがかかる

新たに制度を導入する際は、それによって事前にどのようなリスクが考えられるかを理解しておくようにしましょう。

まとめ

グローバル化が進み、働き方改革が推進されていく中で、以前と比べて従業員の就業に関する自由度は格段に増し、多様性が受け入れられるようになってきました。フリーアドレスは、そんなダイバーシティ化する社会を象徴するような制度の1つ。導入した企業にとっては大きな変革となるため、失敗のリスクも当然背負います。しかし、うまくいけば業務の効率化や生産性の向上だけでなく、社内にイノベーションを起こし、新たなビジネスチャンスを生み出せるかもしれません。時代の変化に対応する柔軟な企業を目指すなら、手始めにフリーアドレスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

小さく始める・働き方改革のすすめ