冗長性・冗長化とは?サーバーやシステムを安全に管理するために
企業にとって、サーバーやシステムは一瞬たりとも止まることが許されません。そのため、セキュリティ対策を万全にする必要があります。またサイバー攻撃以外にも、自然災害や人為的なミスによって、サーバーやシステムが停止する事態が想定されます。
そのような緊急時に備える際に、「冗長性」「冗長化」という言葉が使われることが多くなってきました。ここでは、サーバーやシステムを安全に保つための冗長性・冗長化という言葉について解説していきます。
冗長性・冗長化とは?
「デジタル大辞泉(小学館)」によると、「冗長」とは「無駄が多くて長いこと」という意味です。一般的にはこちらの意味で使うことが多いですが、サーバーやネットワークシステムにおける「冗長性」「冗長化」は、機器故障や突発的なアクセス集中による負荷急増に備え、予備を用意することを意味します。
具体的に説明すると、万が一システム障害が発生しても、機能を維持できるように予備システムを並列で稼働させることで、メインシステムに障害が発生しても、予備システムが稼働を継続できるようにすることを指します。通常のバックアップ方法とは異なり、システムを二重化(ミラーリング)する構成をしなければいけません。
このように予備を用意して緊急時に備えることを「冗長化する」と言い、冗長化によって安全性が確保された状況を「冗長性がある」、あるいは「冗長性を持たせる」と表現します。
冗長性・冗長化が必要な背景とメリット
冗長性・冗長化が求められる背景として、自然災害などの緊急事態が発生した場合、被害を最小限に抑えながら、事業継続をするための方法であるBCP(事業継続計画)の必要性が高まっていることが挙げられます。特に災害に対する対応策は、「DR(Disaster Recovery)」と呼ばれ、早期復旧することで企業のダメージを軽減することができます。
東日本大震災以降、BCP策定の必要性や認知度は高まりました。帝国データバンクの「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2018 年)」によると、「BCPを策定している」企業は14.7%にとどまり、「現在、策定中」が7.4%、「策定を検討している」が22.8%となっており、まだまだ国内でのBCP策定は進んでいないのが現状です。一方で同調査がBCP策定による効果を企業に尋ねた結果、「業務の定型化・マニュアル化」「事業の優先順位の明確化」「業務改善・効率化」など全9項目で数値が上昇しています。
企業分野に1兆円の被害があった2016年の熊本地震では、被災地域の企業の約2割が1週間以上営業再開をできませんでした。万が一の自然災害に備えるためにも、BCPの策定は急がれています。
またリスクは、自然災害だけではありません。サイバー攻撃によるセキュリティ上のリスク、設備や機器の故障などのリスクも想定されます。企業の事業継続の優先順位に則ったIT設備やネットワーク環境の冗長化、バックアップ方法などの構築・運用することで、リスクを回避できるようになります。
サーバーやシステムが停止することで事業継続に大きな影響を与えてしまい、社会的信用の失墜や、多額の損害に直結します。現在、世界的なデジタルトランスフォーメーションが進み、来年には実装されると言われている超高速通信5Gにより、ビジネス上の通信量は爆発的に増えることが確実視されています。その分だけ、サーバー、システムが停止するリスクは大きくなります。
このようなリスクを低減する仕組みとして、バックアップのみならず、冗長化によるシステム障害対策が必要となります。
●BCP(事業継続計画)における企業のデータ保存とバックアップ方法
<参照元:
帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2018 年)」
日本システム監査人協会「残念なBCPとこれからのBCP」>
冗長性・冗長化のメリット
冗長性・冗長化が求められる背景として、事業活動の継続を説明しました。自然災害やサイバー攻撃、機器・システムの不具合による企業活動停止を防ぐことが、冗長性・冗長化の最大のメリットです。さらに冗長化のメリットとして「サーバーの負荷軽減」も挙げることができます。
サーバーの負荷軽減・負荷分散
一時的なアクセス集中でサーバーに大きな負荷がかかった場合も、システムを冗長化しておくことで負荷を軽減・分散できます。また最も多いサイバー攻撃であるDoS攻撃・DDoS攻撃に対しても、複数台のサーバーを用意して冗長性を持たせることで回避できます。
冗長性・冗長化を確保する構成とデメリット
次に冗長化の代表的なシステム構成とデメリットを紹介します。
冗長化の代表的な構成
現在、冗長化のシステム構成として代表的な「アクティブ・スタンバイ構成」「マスター・スレーブ構成」「マルチマスター構成」の3つを紹介します。
アクティブ・スタンバイ構成
最もシンプルな構成です。メイン稼働しているサーバーに障害があった場合に、用意していた同じサーバーに切り替える構成です。デメリットは、予備サーバーは通常時でも、待機状態(スタンバイ)になっているため、その間のコストがかかってしまうことです。予備サーバーが複数台になれば、その分コストも上がります。
マスター・スレーブ構成
複数のデータベースの制御・操作をするマスター機(サーバー)と、マスター機の制御のもとに動作するスレーブ機(データベース)によって、冗長性を持たせる構成です。通常時はマスター機から参照をしますが、障害が発生した場合のみスレーブ機を参照し、冗長性を持たせます。スレーブ機は、参照のみで書き込みはできません。
マルチマスター構成
文字通り、マスター・スレーブ構成のスレーブ機が、すべてマスター機(書き込み・読み込みが可能)の役割を果たすシステム構成です。万が一、予備サーバーに障害があっても、第2、3の予備サーバーがアクティブ状態で待機しているため、非常に冗長性が高いです。
冗長性・冗長化のデメリット
デメリットは、サーバーやデータベースを複数台用意する必要があるので、初期費用、ランニング費用ともに高額になってしまうことです。しかし、近年はRAID機能を搭載したNASやクラウドサービス、冗長性を持たせるソフトウェアなども比較的安価に入手できるようになりました。
冗長性・冗長化を確保するサービス・機能
サーバーシステムを構築するには人的コスト、金銭的コストがかかります。しかし、冗長性・冗長化は、ソフト面での対策も可能です。ここでは、冗長化のための機能やソフトウェアの代表的なものをいくつか紹介します。
RAID
RAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks)は、1台のサーバー内で複数のハードディスクをまとめて運用・管理・制御する技術です。つまり先述した「アクティブ・スタンバイ方式」を1台で完結できる仕組みとなっています。RAIDを搭載したハードディスクは冗長性が高く、普及が進んでいます。
DRBD
DRBD(Distributed Replicated Block Device)は、ネットワークを介して複数のサーバーをミラーリング(同期)させることができるソフトウェアです。物理サーバーを購入せずに、RAIDを構築できるため、導入コストを抑えることができます。
VMWareなど仮想サーバーやクラウドシステムの冗長化
VMWareは、世界でもトップシェアを誇る仮想化クラウドサービスです。VMWareなどの各種サービスは、物理サーバー上に複数の仮想サーバーを構築することで冗長性を持たせます。クラウドサービスのため、物理サーバーを購入する必要がないのもメリットです。
まとめ
このようにサーバーやシステムを安全に運用するためには、冗長性・冗長化が欠かせません。自社のシステム障害による企業活動の停滞リスクを回避するためにも、バックアップに加え、冗長性を持たせたシステム構築が必須となります。
現在は初期コストを抑えて、導入することも可能となっています。環境に応じた冗長化の構成を選択し、必要な仕組みやソフトウェアの利用を行いましょう。