テレワーク導入の課題はコミュニケーション。周辺機器が鍵を握る!
自宅やカフェなどオフィスの外で働くテレワークが働き方改革の1つとして注目を集めています。
総務省の「2017年 通信利用動向調査」によると、国内企業のテレワーク導入率は13.9%。企業にとっては業務プロセスの革新や事業コストの削減、労働者にとってはワーク・ライフ・バランスや生産性の向上など多くのメリットが期待され、導入企業の8割以上が「効果があった」と回答しています。
しかし、勤怠管理をどうするのか、コミュニケーションに問題が発生しないかなど導入に対する課題もまだまだ残っているようです。これらの不安をどうやって解消すればいいのか、導入に向けたヒントを紹介しましょう。
テレワーク本来の目的とメリット
テレワークは「tele(離れたところ)」と「work(働く)」を合わせた合成語で、場所や時間にとらわれない働き方を指します。テレワークで働く人はテレワーカーと呼ばれています。
生まれたのは1970年代の米国。当時はマイカー通勤による交通混雑や大気汚染が社会問題化しており、それを避ける意味でスタートしましたが、現在では、ノートパソコンや高速インターネット回線の普及により、情報通信機器を活用して社外で働くことを指すようになりました。
日本では東京都港区に本社を置く大手パソコンメーカーが1984年、吉祥寺にサテライトオフィスを設置、社員の通勤負担を軽減したのが始まりです。結婚や出産を機に退職しがちな優秀な女性社員に家事、育児と仕事を両立してもらうのも目的でした。
2011年の東日本大震災以後、節電やコスト削減の意味を込めて導入企業が増えたほか、政府が働き方改革の目玉の1つに推奨しています。
テレワークとひと口にいっても働き方はさまざまです。テレワークを推進する業界団体の日本テレワーク協会は、働く場所によって下記の3つに分けています。
・在宅勤務
・モバイルワーク
・施設利用型
在宅勤務はパソコンとインターネット、電話などを使って会社と連絡を取りながら自宅で働く方法です。モバイルワークは顧客先や移動中、カフェなどでパソコン、タブレット、スマートフォンなどを活用して仕事します。施設利用型は、サテライトオフィス、レンタルオフィス、コワーキングスペースなど勤務先以外のオフィススペースを活用することを指します。
深刻な労働人口の減少でテレワーク普及が加速
テレワークは実施する企業に大きなメリットがあると考えられています。厚生労働省によると、日本の労働人口は2000年代初めをピークに減少局面に入りました。2017年は6,556万人でしたが、少子高齢化の影響を受けて2030年には6,180万人まで減ると予測されています。
そのため、企業にとって労働力の確保が深刻な課題として浮上してきたのです。これまでは出産、育児、介護などを理由に退職・休職をしてしまう方も少なからず存在しました。しかし、テレワークを導入することで、例えばオフィス出勤がマストだと働けないが、在宅なら働ける、という方の離職を防ぐことができます。
また、社会には高い能力や技能を持ちながら、就労できない人たちがいます。その中には即戦力の人材が少なくありません。テレワークを導入することで、そのような方々の雇用を促進することも可能です。
ICT環境が整っていれば、時間や場所に関係なくオフィス内と同じ仕事ができますし、時間当たりの生産性を定量的に把握することも可能です。その結果、長時間労働を抑制し、生産性を高めることができます。事実、総務省の「通信利用動向調査」によるテレワークを導入した企業に対するアンケートでは、「生産性向上に非常に効果があった」「ある程度効果があった」と答えた企業は全体の82.1%にも及びます。逆に「マイナスの効果であった」と答えた企業はゼロでした。
テレワークの導入により、従業員の満足度が上がり、人材確保や定着率向上にもプラスの効果をもたらすと期待されています。また、テレワーク導入の一環であるサテライトオフィスの設置は、災害時のリスク管理やBCP(事業継続計画)の点でもメリットがあります。
またテレワークは、育児や介護などの特別な事情がなくとも、外勤が多い業種や企業にも有効です。顧客を往訪した後に、会議や書類作成などのために一度帰社、そしてまた外出するケースがありますが、テレワークの制度や環境が整っていると、その際に生じる無駄な移動時間を削減することができます。
テレワーク導入の課題はコミュニケーション?
しかし、テレワーク導入がメリットばかりを生むわけではありません。その1つがオフィス内で働く人とテレワーカーとの間で情報格差が生じやすいことです。
テレワーカーの場合、オフィス内にいる人と違い、どうしても他の社員とのコミュニケーションが不足しがちです。その結果、テレワークの社員が孤立してしまう例も報告されています。総務省の「2018年版 情報通信白書」によると、テレワーカーのコミュニケーション不足を解消するため、企業側もさまざまな手を講じています。
<出典:総務省「2018年版 情報通信白書」よりグラフを作成>
49.0%の企業が「ビデオ会議システム」、39.6%が「チャットの導入」を対策に挙げました。これらを活用して、離れた場所にいるテレワーカーとリアルタイムで迅速にコミュニケーションを取ることができます。ビデオ・電話・WEB会議システムやビジネスチャットはテレワークを導入する上で必要不可欠と言えるでしょう。
総務省のアンケート調査では、ビジネスICTツールを利用している方が利用しない人に比べ、職場が働きやすいと感じていることが分かりました。他の対策としてはサテライトオフィスの設置やテレワーカーに対する相談、フォローアップ制度を取り入れた企業があります。
公正な勤怠管理と評価制度
もう1つ大きな課題となるのが、勤怠管理です。テレワーカーはオフィス外で働いていますから、労務管理者やマネジメント層から姿が見えません。勤怠管理の仕組みはオフィス内で働くことを前提に作られたものがほとんどで、オフィス外で働いた時間を管理するルールを会社ごとに作る必要があります。このため、パソコンのアクセス履歴、操作作業履歴やウェブカメラを利用する方法が徐々に広まってきています。
コミュニケーション不足の中、企業側が成果をテレワーカーに求めた結果、オフィスで働く以上に長時間労働を強いるケースが見受けられます。その結果、ワーク・ライフ・バランスの確立や生産性向上と正反対の結果を生むことが考えられます。これはテレワーカーの自己管理の問題であると同時に、企業のマネジメントの問題といえるでしょう。
こうならないためには、それぞれの企業がテレワークの運用ルールを明確にすることが何より大切です。始業と就業報告の義務化、日報と業務内容から上長がその日の仕事ぶりをきちんとチェックできる態勢を整えなければなりません。ICTを駆使してネットワーク上に構築する仮想の事務環境であるバーチャルオフィスを導入することも解決策になりそうです。
ただし、勤怠管理を厳格にする試みが、テレワーカーのモチベーションの低下を招くことも考えられます。テレワーカーがやりがいを感じられる工夫が、ルール作りを進めるうえで求められています。
さらに、テレワークの運用ルールやテレワーカーの評価制度は、各企業の風土に合わせて作られることになりますが、テレワーカーが肩身の狭い思いをすることがなく、誰が見ても公平だと感じる内容に仕上げる必要があるでしょう。
ICT環境の整備や周辺機器を充実させることで、よりテレワークの効果を大きくできる
テレワークは“どこにいても仕事ができる環境”を整備しなくてはいけません。そのためには、クラウド上のデータ共有が欠かせません。そうなると、セキュリティを万全にする必要が出てきます。この点もテレワークを導入するうえでの大きな課題といえるでしょう。対策としてはさまざまなツールが導入されています。主なものを挙げると
・シンクライアント
・VPN(仮想プライベートネットワーク)
・NAS(ネットワーク接続ハードディスク)
…などです。
シンクライアントは端末で操作したすべての処理をサーバー側で行うもので、端末から社内の機密データが外部に漏れる心配がありません。VPNはインターネット上に仮想の専用ネットワークを構築し、安全なルートを確保して情報のやり取りを進める仕組みです。NASはLAN(ローカルエリアネットワーク)でつないだデバイス内でファイルを共有します。持ち出されたデータは暗号化され、外部から読み取ることができません。
在宅勤務ではなく外出先で働くなどのモバイルワークでは、ノートパソコンやタブレットが強い味方となります。ICTが整った場所で最新機器を仕事に取り入れれば、場所に関係なく働くことができ、可能性も広がるのです。
周辺機器の導入でも劇的に業務効率・セキュリティ向上が可能
またビデオ・WEB会議システムでは、WEBカメラやヘッドセットが有効になります。必要に応じて法人用パソコンを注文する手段もありますが、コストを考えると周辺機器やツールの導入からでもテレワークを始めることはできます。
例えば、クラウドストレージを全社で導入するよりもセキュリティ機能が付いた小型のSSD、HDDやUSBメモリがあれば、外勤が多い方のモバイルワークの際に活用できます。インターネット環境がない場合、クラウドストレージは機能しませんが、記録媒体は環境に依存しないためまだまだ活躍できるシーンが多く存在します。特に大容量のデータを持ち運ぶ際は、SSDは高速のデータ転送が可能なのでスピーディな業務が可能となります。
またテレワーク、リモートワークを導入する際に、企業がリスクと考えていることの1つに、情報漏えいなどのセキュリティに関わるリスクがあります。日本ネットワークセキュリティ協会によると、2017年度の情報漏えいの原因は、「誤操作」が25.1%と最も多く、続いて「紛失・置き忘れ」が21.8%、「盗難」が5.6%となっています。
意外にも物理的な要因で情報漏えいが起きていることがわかりますが、これらに対しては「セキュリティワイヤーロック」を導入することで防止することができます。また、気になるのぞき見などは「のぞき見防止フィルタ」などの使用が有効です。
このように周辺機器を効果的に導入することで、さらなる業務効率化やセキュリティ対策の向上に役立てることが可能です。
IT環境の整備で企業誘致に成功した例も
これまで見てきたように、テレワークを推進するためには、ICTの整備が欠かせません。ICTの整備が地域を変えた例が四国にあります。四国山地に抱かれた徳島県の神山町です。神山町は人口5,000人足らずの過疎の町で、1955年のピーク時に比べて人口が4分の1に減っていますが、テレビの難視聴対策として2004年にケーブルテレビ兼用の光ファイバー網が町内に敷かれました。
これを活かして進めたのが、IT企業のサテライトオフィス誘致です。15社を超す企業のサテライトオフィス誘致に成功し、2011年度には転入人口が転出人口を上回る人口の社会増を達成、「神山の奇跡」と呼ばれました。過疎の町が今や全国から視察が相次ぐサテライトオフィスの先進地に生まれ変わったのです。カフェ代わりに河原の石に腰掛け、ノートパソコンで作業する写真が話題を呼び、自然豊かな地で働きたいという従業員のニーズに応える企業やワーク・ライフ・バランスを重視する企業から注目を集めています。
まとめ
現在の人手不足を補いながら、働き方改革を実現する特効薬の1つがテレワークの推進です。働きたくても就労できなかった優秀な人材が仕事に就く機会を広げ、企業に活力をもたらすでしょう。業務効率化や生産性向上に期待できるうえに、多様な働き方を推進することで企業ブランディングの向上が図られ、離職率の低下、優秀な人材の確保にもつながります。
企業にこれまで導入をためらわせる理由となっていたセキュリティやコミュニケーション、勤怠管理などの課題も、最新のICTを活用することで克服できる方向が見えてきました。また周辺機器をうまく活用することで、大きな効果が期待できますし、テレワークにおけるウィークポイントを補完することもできるので、導入の際に検討することをおすすめします。
現代社会はICTの発達で大きな変化の時代を迎えています。テレワークは、企業、労働者の双方にとって、激動する時代を乗り切る鍵となるはずです。