年次有給休暇5日取得が義務化! 中小企業がとるべき対策とは?
2019年4月から順次施行されている「働き方改革関連法」。生産性の向上や多様な働き方の推進、待遇の格差改善などを目的に制定されました。
「時間外労働の上限規制」「同一労働・同一賃金」「勤務間インターバル制度」「高度プロフェッショナル制度」「月60時間超の時間外労働の割増賃金」など、企業にとっては就業規則や制度面で対応すべきことが多くありますが、今回は「年次有給休暇の取得義務」に焦点を絞って解説をします。
日々の多忙な業務の中で、経営層やマネジメント層は、どのように従業員に年次有給休暇を取得させていけばいいのでしょうか。年次有給休暇取得義務に関する内容を解説するとともに、対応策について紹介します。
まずは年次有給休暇の仕組みを知ろう
2019年4月から施行された「年次有給休暇の取得義務」の内容を解説します。正確には、年次有給休暇について定められている「労働基準法第39条」が改正されたことを一般的には「年次有給休暇の取得義務」「年次有給休暇の時季指定義務」などと言います。
年次有給休暇の付与日数や対象者は?
労働基準法において、労働者は「雇い入れの日から6か月継続して雇われている」「全労働日の8割以上を出勤している」という2点を満たしていれば、原則として10日の年次有給休暇を取得できるようになっています。対象は一般の正社員だけでなく、管理監督者や有期雇用労働者も含まれています。その後、継続勤務年数1年ごとに年次有給休暇は加算されますが、付与日数は継続勤続年数によって異なります。勤続年数が長くなるほど、徐々に付与日数も増えていく仕組みです。
継続勤務年数 | 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
6年6か月以上勤務している労働者は、1年ごとに20日付与されます。前年度に取得されなかった年次有給休暇は翌年度に繰り越すことができますが、年次有給休暇の請求権の時効は2年と定められているため、保有できる最大日数は40日となります。これは正規雇用労働者のケースです。
パートやアルバイトも年次有給休暇の付与が受けられる
年次有給休暇の付与は、パートやアルバイトといった非正規の従業員も対象となります。所定労働日数が週5日、もしくは所定労働時間が週30時間以上の場合は、正規労働者と同等の年次有給休暇が付与されますが、下記2つに当てはまる場合は日数が変わってきます。
・所定労働時間が週30時間未満
・週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下
これらの基準に該当する非正規従業員は、以下のように勤務時間(日数)に応じて年次有給休暇が付与されます。
週所定 労働時間 |
1年間の 所定労働日数 |
継続勤務年数 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5 | |||
4日 | 169~216日 | 付与日数 | 7 | 8 | 9 | 10 | 12 | 13 | 15 |
3日 | 121~168日 | 5 | 6 | 6 | 8 | 9 | 10 | 11 | |
2日 | 73~120日 | 3 | 4 | 4 | 5 | 6 | 6 | 7 | |
1日 | 48日~72日 | 1 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 3 |
パートやアルバイトなどの非正規雇用労働者にも所定労働時間・日数に応じて、年次有給休暇が付与されます。しかし、「年次有給休暇の取得義務」は、“10日以上の年次有給休暇が付与される労働者”が対象となりますので、すべての労働者に取得義務が発生するわけではなく、上記の表の赤枠部分のみとなります。
次に、改正労働基準法第39条の内容を詳しく解説していきます。
年次有給休暇取得義務の内容と罰則
下記が、「年次有給休暇の取得義務」を定めた法律の条文となります。年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇を付与した日から1年以内に5日間を使用者が時季を指定して取得させなければいけません。
“使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はない)”
“前項の規定にかかわらず、労働者の請求する時期に与えた場合又は労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合において労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、有給休暇を与える時季に関する定めをし、有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が5日を超える場合には、5日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。”
(引用:労働基準法第39条第7、8項)
年次有給休暇取得に関しては、日数以外にも下記の5つの法規定が制定されました。
①労働者の請求する時季
年次有給休暇を取得する時季については、労働者が請求する時季に与えることとされています。労働者が具体的に取得の希望日を指定した場合、使用者はその通りに年次有給休暇を与える必要があります。
②時季変更権
例外として、年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合(同一期間に多数の労働者が休暇を希望し、全員の希望する期間に休暇を付与しづらい場合など)に限り、使用者は「時季変更権」を行使し、他の期間に年次有給休暇の時季を変更できます。
③年次有給休暇の繰り越し
年次有給休暇の請求権は2年です。
④不利益取扱いの禁止
そして使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額など不利益な取り扱いをしないようしなくてはいけません。具体的には、精皆勤手当や賞与の額の算定など年次有給休暇の取得を欠勤扱いにして不当に査定することなどが禁止されています。
⑤年次有給休暇管理簿の作成・保管義務
使用者は労働者ごとに年次有給休暇の時季、日数、基準日を明記した「年次有給休暇管理簿」を作成し、年次有給休暇を付与した期間中と期間満了後3年間保存することも義務付けられています。
年次有給休暇を10日間付与された従業員に対して、使用者は「5日」時季を指定して取得させなければいけませんが、それが「6日」ではNGとなります。体調不良や個人的な事情のために取得できるように、5日は必ず個人が自由に取得できるように残しておかなければなりません。
罰則について
適切な年次有給休暇の取得が行われなかった場合、労働基準法違反となります。処罰の対象となれば、使用者に、従業員1人当たり「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられます。
・最低年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合
・使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合
・労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合
<参照元:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」
厚生労働省「有給休暇ハンドブック」>
企業が取るべき対策とは
内閣府が発表した「仕事と生活の調和実現の状況2017」では、「ためらいを感じる」「ややためらいを感じる」が63.8%にも及びました。またためらいを感じる理由として、「みんなに迷惑がかかると感じるから」が最多で、「後で多忙になるから」が次いで多い結果となりました。
従業員が罪悪感なく年次有給休暇を取得できるようにするためにまずすべきことは、経営層が「メリハリのある働き方の重要性」「心身の健康が仕事のパフォーマンスに影響する」といったメッセージを発信したり、上司が部下に取得を勧める、あるいは自ら率先して取得したりと、「休みたいときは休んでいい」という職場の空気を醸成していくことです。その上で、業務に支障をきたさないよう、取得時季の指定は一人ひとりの希望を丁寧に聞きながら進めることが大切です。
<参照元:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」を元に図を作成>
その一方、特に中小企業にとっては従業員が全員自由なタイミングで休みを取ると、業務に支障をきたすかもしれないという懸念もあると思います。そうならないために、管理部門には下記のように計画的な年次有給休暇の取得を促す工夫も必要です。
年次有給休暇取得奨励日の設定
年末年始や大型連休の前後、飛び石連休の間に有給休暇を取って、長期休暇にしようと考える人が多いのは、どの企業も同じです。そこで、そのような日程に合わせて「この時季に取得することを奨励する」として社内全体、あるいは事業部ごとに有給休暇取得奨励日を設定します。強制するわけではなく、あくまで「奨励する日」という位置付けです。会社が奨励しているのであれば取得申請も出しやすく、従業員が一斉に休みを取ることで「みんなは働いているのに自分だけ休んでいる」という罪悪感を持たなくて良くなります。なお、取引先などには事前に「この時季は有給休暇を取る従業員が多くなります」と伝えておきます。この場合、担当者不在になることを想定したスケジュールを調整する必要があります。
計画的付与制度(計画年休)の導入
年次有給休暇をより多く取得するためには、計画性が必要です。事前にプランを立てた上で休暇取得日を割り振っておけば、経営上の影響を最小限に抑えることが可能です。計画的年休制度で取得した場合でも、取得義務の5日の中にカウントされます。
計画的な年休の割り振り方としては、企業もしくは事業部全体の休業による一斉付与や、班・グループ別の交替制付与、年次有給休暇付与計画表による個人別付与といった方法があります。年度別や四半期別、月別などの期間で、個人ごとの年次有給休暇取得計画表を作成し、取得予定を明確に把握しておくことで、職場内において取得時季の調整がしやすくなります。
しかし、計画的付与制度を利用するには、必ず就業規則に規定し、労使間で協定を締結しなくてはいけません。また年次有給休暇の計画的付与は、すべての付与日数について認められているわけではない点についても注意しましょう。年次有給休暇のうち、5日間は個人が自由に取得できるように必ず残しておかなければなりません。
労使協定の締結・就業規則の改定について
就業規則による規定計画年休を導入する場合には、まず、就業規則に「労働者代表との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることとする」などのように定める必要があります。実際に計画的付与を行う場合には、就業規則に定めるところにより、労働者の過半数で組織された労働組合、あるいは労働者の過半数を代表する者との話し合いによって、書面による協定の締結が不可欠です。なお、所轄の労働基準監督署に届け出る必要はありません。
<参照元:内閣府「仕事と生活の調和レポート2017 第三章」>
業務の効率化・見直しも必要
働き方改革関連法では、年次有給休暇取得だけでなく、「時間外労働の上限規制」が設けられ、これまで大企業が対象だった「月60時間を超える時間外労働を行わせた場合、50%以上の割増賃金を支払う」という義務が、中小企業にも適用されることとなりました。年5日以上の年次有給休暇を取得させていても、従業員が有給休暇の前日に無理して遅くまで残業していては意味がない、というわけです。
年次有給休暇に関する社内制度を改める一方で、長時間労働にならないように業務効率化や生産性の向上に、同時に着手しなくてはいけません。
まとめ
仕事は仕事、休みは休みとメリハリをつけて働くことにより、従業員満足度やモチベーションの向上、ワーク・ライフ・バランスを確保できます。結果として従業員の健康維持や離職率低下にもつながり、会社全体にとってプラスに働きます。
働き方改革関連法が施行された今こそ、自社の職場環境を見直す絶好のタイミングかもしれません。もし現在、自社が年次有給休暇を取得しにくい職場環境や雰囲気となっているのであれば、働き方改革関連法が施行されるこのタイミングで是正をしてみてください。年次有給休暇取得の義務化は従業員が長く働くために欠かせない施策です。従業員の声にきちんと耳を傾け、計画的な年休の取得や業務効率化のために何ができるのかを話し合いましょう。迅速かつ真摯な対応が、企業の信頼度にもつながります。