生き残る企業になれるか?
いま経営者がアップデートすべきは
「価値観」の捉え方だ

“生き残る企業になれるか?いま経営者がアップデートすべきは「価値観」の捉え方だ 生き残る企業になれるか?いま経営者がアップデートすべきは「価値観」の捉え方だ
Introduction
テクノロジーが進化していく現代において、企業として生き残るために、経営者はどのようなアップデートを遂げるべきなのでしょうか。Yahoo!アカデミア学長として次世代のリーダー育成を行う伊藤羊一さんに、これからの経営層に求められる“価値観”について伺いました。それは、経営者だけでなく、企業で働く従業員も共通してアップデートすべきポイントでもあるようです。

激動の時代にリーダーシップを発揮する、リーダーの条件とは

スマートフォンの誕生とSNSの普及により世界は変わり、今やAIの発展とブロックチェーン技術により“国家”や“政治”すら揺らぎかねない時代となりました。そんなテクノロジーの進化が加速度的に進む現代において、 “現状維持”だけで企業が生き残ることは困難です。

では、そんな激動の時代において、企業経営者はどのようにリーダーシップを取ればいいのでしょうか?

Yahoo!アカデミア学長として次世代のリーダー育成を行う伊藤羊一さんに、これからの経営層に求められるリーダー像を伺います。

−−次世代のリーダー育成に取り組んでおられる伊藤さんですが、次世代のリーダーに求められるものとは何だと思われますか?

伊藤: 3年ほど前、Yahoo!アカデミアの学長就任にあたり、あらためて「リーダーになる人は他の人と何が違うのか?」と考え、とある大企業の経営者層とその下で働いている方々にインタビューを行いました。その結果として、それぞれの層の「行動」「スキル」「マインド」において、得意としていることが違うという傾向が見えてきました。

<経営者層・リーダー層>

【行動】大筋を掴むこと/メッセージング/ビッグピクチャーを描く
【スキル】未来を構想する/政治・経済・文化に対する理解
【マインド】イノベーション/自分の意思がある/どのように世界を変えたいのかというヴィジョンがある

<それ以外の層>

【行動】調整をすること
【スキル】自分の担当する業務スキル(それ以外はあまり得意ではない)
【マインド】会社の意向を中心にPDCAを回したい

この差を簡単な言葉にすると、それは「自分の意思・想いに基づいて動いているかどうか」の違いです。

そして、私は講演会などで参加者の方々に「リーダーに必要なものとは?」とよく聞くのですが、その答えとして出てくるのは「行動」か「マインド」に属するものばかりで、まず「スキル」の話は出てきません。そういったリサーチ結果も含め、リーダーシップを発揮するための条件はやはり「マインドの強さ」だと私は考えています。

しかし、日本のリーダーと言われる人たちを見てみると、実は“スキルはあるけれど、自分の意思は弱い”というケースが少なくないように感じます。

「価値観」が自分を動かし、その熱狂が人々と社会を動かす

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−−マインドの弱さが日本の企業経営者の弱点とのことですが、マインドは鍛えられるものなのでしょうか?

伊藤: マインドとは、言い換えれば「自分の信念」であり「自分が大事にしていること」です。つまり自分の「価値観」を深く知ることが、マインドを強くすることにつながります。

−−「価値観」とは何の気なしによく使う言葉ですが、「あなたの価値観は何?」と問われれば、うまく言語化できる自信がありません。

伊藤: 自分の価値観を見つめるためには、過去に立ち返ることが重要です。人それぞれ大事にしているものは違いますよね。では、なぜそれが違うのかというと、みんなそれぞれが違う人生を送ってきているからです。だから、人生の歩みを遡っていくと、大事にしていることの原点が見えてくるんです。過去を知ることで、自分が大事にしていることのルーツを導き出せれば、その延長として自然と自分自身が思い描く姿へ導くことができるはずです。

というのも、リーダーシップの流れには3つの段階があるのです。

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1.リード・ザ・セルフ

価値観が自分自身を導きドライブさせていく段階

2.リード・ザ・ピープル

自分の熱狂がまわりの人たちを引きつけ、動かしていく段階

3.リード・ザ・ソサエティ

仲間たちの熱狂がサービスや商品などのかたちとなり、社会を動かしたり、そこに貢献したりする段階


既存企業はすでに「リード・ザ・ソサエティ」をやっています。しかし遡ってみれば、1人ではできないから「リード・ザ・ピープル」してチームで動いているわけです。そして、そもそもなぜそれをやっているのかといえば「リード・ザ・セルフ」、つまり自分自身が熱狂しているからなわけです。

−−世界に名だたる大企業、例えばアップルやホンダもその原点には創業者の強烈なマインドがあったことは有名ですね。

伊藤: そうです。どんな大企業だとしても、そこには強いマインドが出発点としてある。だから、社会と人を動かすリーダーにとって本来重要なのは、自分を突き動かす原点、つまり「価値観」なんです。

ただ、その一方で、経営者にスキルがいらないかといえば、そんなことはありません。これからはAIが得意なことはAIがやって、それ以外を人間がやるという時代がやってきます。そこで重要となるスキルは、AIにはできないスキルです。1つは“問いを立てる”とか“コミュニケーション”とか“構造化/抽象化”といった「ロジカルシンキング」。そして「アート」です。

−−経営者にアート、つまり芸術のスキルが必要になってくるわけですか?

伊藤: はい。アートという分野には正解がありませんが、そういう領域でのセンスを鍛えることが重要となってきます。たとえば、AIは人間が思いもつかないような“意外な点と点の結びつき”を見つけることはできるのですが、なぜそれを結びつけたのかという“WHY”には答えられません。しかも、その“WHY”にはロジカルじゃない感覚的なものが往々に含まれます。「筋は通っているけど、おかしくない?」っていうことはよくありますよね。そういうロジカルじゃない部分をサポートするのは、アートや、アートを愛でる心にあるように感じます。

社員のモチベーションを高めるために必要なものは、経営者と同じ「価値観のアップデート」

−−伊藤さんのお話を伺っていると、経営者やリーダーに限らず、一般の社員も強いマインドを持っていれば、仕事に対して高いモチベーションを持ち続けることができるということになります。ですが、実際に社員一人ひとりが高いモチベーションを持ち続けるというのは、なかなか難しいものだと思います。どうすれば社員のモチベーションは維持されると思いますか?

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伊藤: 会社自体はただの箱であって、そこに意思はありません。働いている一人ひとりの意思の集合体こそが会社となっているわけです。だから本来は、経営者であろうが新入社員であろうが、自分の意思や信念こそが必要となってきます。

そのためには繰り返しとなりますが、自分を考え、そして人と対話することを通して、自分自身の「価値観」を見つける。それが重要です。Yahoo!アカデミアでもそればかりやっていると言っても過言ではありませんね(笑)

伊藤 羊一
PROFILE

伊藤 羊一Yoichi Ito

1967年、東京都生まれ。東京大学経済学部を卒業し、日本興業銀行に入行。その後プラス株式会社にて執行役員マーケティング本部長、ヴァイスプレジデントを歴任し、経営と新規事業開発に携わる。
2015年からはヤフー株式会社でYahoo!アカデミア本部長として、次世代リーダー育成を行っている。

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