ハードウェアメーカーが
プラットフォームビジネスに
進出できた
その理由は、協業にあった。

“ハードウェアメーカーがプラットフォームビジネスに進出できたその理由は、協業にあった。 ハードウェアメーカーがプラットフォームビジネスに進出できたその理由は、協業にあった。
Introduction
自社の主力製品がコモディティ化していくという難局に直面している企業は少なくありません。どうやって次代の希望となる事業を作っていくのか。それを打破するためのチャレンジでは、結果は当然のごとく、スピードの速さも求められます。そんな課題だらけの新規事業というジャンルにおいて、協業を行いながらも高速で結果を出している驚異的な事例がエレコムとメガハウスが手がけた「@AR」です。ハードウェアメーカーのエレコムが、プラットフォームビジネスを手がけるまでになった「アップデート」術とは何かを明らかにしていきます。

メンバー

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楠 祐介
(エレコム株式会社:商品開発部 アライアンス&サービス事業課 課長代理)
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臼井 一夫氏
(株式会社メガハウス:新規開発室アシスタントマネージャー)

ハードディスクのコモディティ化をアップデートで乗り切る。
7割の驚異的シェアを獲得できた理由とは

「新しい製品やサービスを常に生み出し、挑み続け、成長し続ける」エレコムにはこのようなマインドを持ち、自らや周囲を絶えずアップデートし続ける社員がいます。商品開発部 アライアンス&サービス事業課の課長代理である楠祐介もそんな社員のひとり。楠が手がけたプロジェクトとして挙げられるのは「ハードディスクの刷新」です。

「ハードディスクはコモディティ化していて、差別化が難しい製品カテゴリでした。さらに当時エレコムとしてはシェアも低く、収益性も低いという状況で『これからどう戦っていくのか?』というところがスタート地点でした。」と話す楠。
差別化の難しい製品をどのようにして刷新し、売っていくのか? そんな難題に、楠はユーザー目線に立ち返るところから手をつけ始めました。

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「そもそもハードディスクは何に使われているのか?というところに着目しました。それまではハードディスクといえば、パソコンの周辺機器としてデータを保存する使われ方が当たり前とされていました。そのためメーカーも、お店も、そのような用途で訴求を行ってきたのです。でも実態を探っていくと、お客さんの半分以上がテレビに接続しての録画用途で使っていることがわかったのです。」

古くからある製品だからこそ、メーカーも販売店もその用途を決めつけていたハードディスク。しかし、その実態は業界全体の想定と大きく異なっていたのだそう。

「そこで私たちは大胆にも、パソコン用のハードディスクを捨て去り、テレビ用のハードディスクを出すという戦略に転換したのです。製品のパッケージにもパソコンのことは書かず、売り場もパソコンではなくテレビ売り場で勝負に出ました。そうしてテレビ用途でトップシェアを獲得し、リテール全体では30-40%まで上昇して、トップメーカーと同じラインまで一気に伸びました。今となってはハードディスク=テレビ用途が当たり前になっているので、ひとつ新しい動きを作れたのではないかと自負しています。」

大きな方針転換によって、見事コモディティ化していたハードディスク市場で差別化を図りシェアを獲得した楠。しかしその裏にはひたすら地道な作業があったことも打ち明けます。

「製品をただテレビ売り場に置くだけではダメだと思い、お客様からの問い合わせに着目しました。一番多い問い合わせは『私の持っているテレビで使えるのか?』というものでした。だからこそ、それさえクリアすれば買ってくれると思い、日本中にあるテレビでそのハードディスクが動くのかどうか、1台ずつ全部試したんです。そうして分厚い対応表を作って、お店の販売員さんも自信を持って薦められるような状況を作ったのも大きかったと思いますね。」

ARを身近なものにアップデートした「@AR」。可能にしたのは、協業とベンチャー的発想だった

そんな楠が新しく手がけたのは、エレコムとバンダイナムコグループで長年キャラクター商品を手掛けてきた株式会社メガハウスによる初の協業プロジェクト「@AR(アットエーアール) 」です。

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「@AR」 https://atar.jp/


視聴アプリ「@AR Player」と、配信用のクラウド型ソフト「@AR Station」を組み合わせた、ARコンテンツの配信/視聴/制作の総合プラットフォームである「@AR」のサービスコンセプトは「AR利用の日常化」。これまで新技術とされ、その利用にハードルがあったARを、身近なものとしてアップデートすることを命題としています。

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そもそも「@AR」はどのような思いから始まり、開発されたのか。そしてこれからの展望とは? パートナーである株式会社メガハウス新規開発室アシスタントマネージャーである臼井一夫氏もお迎えして、楠と対談を行っていただきました。

−−@ARのプロジェクトはどのような経緯で立ち上がったのでしょう?

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臼井氏: 元々エレコムの楠さんとは、2016年4月に発売したVRヘッドセット「ボッツニューライト」などで、一緒にお仕事をしていました。その延長として新しいVR製品の話を楠さんとしようとしていた時、ちょうどARの面白い事例を仕入れたので雑談の一環でそれを見せたんですよ。そうしたら楠さんが「これ面白いですね」とリアクションし、そこからあっという間にARをメインとしたプロジェクトの話が進んでいったんです。

楠: その背景として、VR事業で感じた大きな課題がありました。それは「プラットフォーム側じゃないと、このビジネスには参加できない。」ということです。スマホを使ったVRゴーグルを出したところで、それはVRを見るだけのツールに過ぎなくて、まるで人の土俵の隅っこにいるような感じだと思ったのです。だからこそ、私たちから場所を提供できるようなサービスをずっと探していました。そこで「ARだったら新しいビジネスとしていろんな人に楽しんでもらえるんじゃないか?」と感じたことがスタートとなりました。

−−ハードディスクの時はかなり市場調査やユーザー調査をされたと聞きましたが、「@AR」に関してそうした念入りなリサーチは行ったのでしょうか?

楠: ある程度のリサーチは行いましたが、正直なところ「@AR」に関してはベンチャー企業的な「やってみないとわからないから、やってみよう。」という想いが先行してスタートしたプロジェクトでしたね。ハードディスクの事例とはまた違い、今回は「マーケットのこの領域にハマる」と思いながらやったわけではなく、勢いとスピード重視で、プロジェクトを動かしながら改善していった感じですね。

−−ある種「思いつき」のような形でも、二社感で協業が成立したのは以前のプロジェクトで信頼関係があったからなのでしょうね。今回はどちらが発注側というわけではない、初の協業プロジェクトとなりましたが、いかがでしたか?

楠: メガハウスさんとは業種こそ違いますが「エンドユーザーに楽しいことを届けたい」という部分では同じ方向を向いていることもあり、かなり速いスピードでプロジェクトを進めることができたと思います。エレコムは売上のほとんどをハードの販売が占めていることもあり、キャラクターやコンテンツを売るという発想がなかったので、非常に勉強にもなっています。

臼井氏: エレコムさんはとにかくスピーディーですね。コミュニケーションのためのツール(SkypeやSlackなど)も、メガハウスではほとんど活用していなかったので、コミュニケーションの速度に対応していくことが結果的にアップデート(プロジェクトの進行など)に繋がるのだと痛感しました。また、僕らはおもちゃとかエンタメを扱っている会社なので、「面白いのが大事」という部分があるのですが、楠さんはそうしたところも汲み取ってくれて、面白さとスピード感を両立してくれる。非常にやりやすいですね。

楠: 業界が違うということも良くて、お互いに持っていないものが上手くはまっていった感じがありますね。お客さんを紹介するにしてもまず重ならないので、単純にいろんなものが2倍になっている感じがあります。

臼井氏: どちらが受発注ということもなく、レベニューシェアでパートナーという関係性であることも良かったです。しかもお互いに知らない領域に走り出したので、どちらかが教えてあげる立場でもない。一緒に頼りながら走っている感じです。

−−2018年7月に「@AR」を発表しましたが、そこからの世間の反応はいかがですか?

楠: かなりいいですね。ARコンテンツを配信する企業さんにお話を持って行っても、まず興味を持っていただけて「いらないです」と頭ごなしに言われたことはないくらいです。

臼井氏: もともとARをやりたかったけどコスト面で問題があったり、やり方がわからなかったりといった企業さんが多くて、そうした方々からの反応がとてもいいですね。

楠: しかも「@AR」をきっかけに、思いもよらなかったお仕事をいただくようにもなってきました。ARで配信する映像の制作や、CGの制作など、違うビジネスに発展してきて、我々エレコムとしてもコンテンツを販売できるという実感が出てきています。

−−その反響の理由はなんだったのでしょう? 「@AR」においてこだわったポイントを教えてください。

楠: まず利用料金を安くしたことですね。大きな枠でいえば「@AR」はプロモーションプランのひとつでもあると思うんです。でも、プロモーションの予算枠は「@AR」があるからといって何倍に増えたりはしない。それなのにプラットフォームの利用料金が高かったら、肝心のコンテンツ制作にコストが掛けられないということで、安く設定したのです。その結果として私たちがコンテンツ制作のお仕事もいただけるようになりました。それ自体は想定外でしたが、結果的にとてもいい設計だったと思います。

アップデートが次のアップデートを呼び込み、おのずと唯一無二の存在になっていく

−−現在、エレコムは「第二の創業期」という立ち位置で、BtoB市場へのさらなる拡大を推進しています。楠さんは今後どのようなチャレンジをしていきたいですか?

楠: 私としてはBtoCがメインの領域ではあるのですが、今後はBtoBも視野に入れ新サービスをやりたいと思っています。エレコムが掲げているミッションは、デジタルやITやイノベーションとそれを使いこなせていない人を繋ぐ「LIFESTYLE INNOVATION」です。つまり、圧倒的に新しいものをアーリーアダプターや研究者に届けるのではなく、すでに形になりつつあるテクノロジーをしっかりと広く届け、社会に貢献していきます。まだ具体的にお教えはできないのですが、すでにいくつか考えていることがあります。

−−「@AR」以外にも、まだたくさん新規事業のアイデアがあるのですね。

楠: 実は「@AR」を通して、私たちはプラットフォームもコンテンツもハードウェアも提供できる強みがある点に気づくことができたのが大きいと思います。それはつまり「課題を丸投げしてくれたらやっておきます」と言えるということ。この方向性でも「@AR」以外のプロジェクトも視野に入れ新しいもの作っていきたいと思っています。

臼井氏: プラットフォームをやっている会社というのは、だいたいソフトウェアの会社です。それに対して僕らメガハウスもエレコムさんもハードウェアの会社なのにプラットフォームを持っている。それは唯一無二的な感じだと思っています。「@AR」としても、今後はARとハードを組み合わせた新しい製品を世に送り出していきたいですね。

楠: しかも「@AR」をきっかけとして、普通のビジネスも広がっているんです。「そういえばエレコムさんってマウス作ってましたよね?」と言われて営業を紹介したり(笑)新しいジャンルに行くと刺激が多くて、これまでのものも活性化するということを実感しています。そうやってさまざまなビジネスで独自のポジションを取っていきたいですね。

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