性別に関係なく
アップデートが必要。
違いを認め合うことから始めよう

“生き残る企業になれるか?いま経営者がアップデートすべきは「価値観」の捉え方だ 生き残る企業になれるか?いま経営者がアップデートすべきは「価値観」の捉え方だ
Introduction
男女雇用機会均等法の施行から30年余り。女性の働く環境は大きく変わりました。しかし女性の社会進出が進む一方、共働きの家庭において未だに女性が多くの家事や育児を担当するといった状況や、セクハラ問題などはなくなっていません。多くの企業が制度の整備やセクハラ防止のための教育を行うなど対策を進めているように見えますが、その背景には、いつまでも価値観をアップデートできない人々の存在が見え隠れします。では、どうすれば人は価値観をアップデートできるのでしょうか? 『Business Insider Japan』統括編集長/『AERA』元編集長として数多くの働く女性を取材し、2018年には著作『働く女子と罪悪感:「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる』を出版された浜田敬子さんにお話を伺います。

男女雇用機会均等法の施行から30年。変わったものと変わらないもの

−−男女雇用機会均等法の施行から30年が経ちました。女性の働く環境はどのように変化したと感じていますか?

浜田: 大きな変化として挙げられるのは、女性の採用が増え、働く女性が増えてきていることです。例えば朝日新聞社では1989年入社の私の同期は80人ほどいましたが、女性はそのうち14人。それでも当時は「女性が増えた」と言われていました。それに対して、現在は年によっても違いますが、3割から4割ほどが女性記者。この30年で制度が大きく変わり、法律や企業内の制度などが充実し育休も取りやすくなり時短勤務なども可能になり、確実に女性が子供を産んでからも働きやすくなったとは思います。1990年代は出産後、働き続けることはごく少数の女性にしか選択できない道でした。

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−−逆に変化していない部分はどの点だと思われますか?

浜田: 男女ともに“意識が制度に追いついていない”という点です。女性の能力を社会で発揮するための「女性活躍推進法」が施行されましたが、この法律ができた“本音”は今後人口減少で労働人口不足が深刻になるからだと思います。つまり、女性の能力を引き出すということではなく「労働力が足りなくなるから女性にも働いてもらわないと」ということだと思います。

−−「女性が活躍」と言うと響きはいいですが、その実は未だ男性中心原理の社会のままである、と。

浜田: 「表面だけお化粧しました」みたいな状況ですね。本質的なところは変わっていないので、それがボロボロ剥がれていっているのが現状だと感じています。

一方で、女性たちもこの動きをポジティブに捉えるべきだとも感じています。働くことを楽しみ、肯定的に捉えることによって見える景色が違ってきますから。働くということには楽しい部分がたくさんあるから「楽しんでね」という気持ちで書籍(『働く女子と罪悪感: 「こうあるべき」から離れたら、もっと仕事は楽しくなる』)を執筆しました。

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働く女子と罪悪感_カバー

「こうあるべき」という既存の考え方をアップデートするために必要なことは?

−−たしかに「仕事を楽しむ」という方はそう多くないように感じます。

浜田: 20代の女性を取材していると「収入のいい男性と結婚できたら本当は専業主婦になりたい」という女性は未だに多くて、親世代の刷り込みの根深さを感じます。母親が専業主婦という世代だから、幸せな家庭の姿はそういうものだと思い込んでしまっていて、アップデートされない。それが歯がゆいですね。

−−そうした“幸せな家庭像”はもう有効ではない、と。

浜田: そもそもそうした家庭像は、実は日本で古くからあったモデルではありません。戦後の高度経済成長期に長時間働くサラリーマンをつくるために都合が良かったモデルだったのです。常に働いている男性と、それを支える女性をつくるという意味で当時は合理的だったと思います。それ以前は自営業や農家が多かったので、そもそも働いている女性は多かったのです。

−−そのような家庭は“古き良き家庭像”といったイメージがありますが、ここ数十年のトレンドでしかなかったわけですね。

浜田: そうです。その時代はたまたま合理的だったのですが、今はそうではありません。なぜなら若い人たちの賃金はなかなか伸びず、将来も不安定。若い男性たちは共働きがデフォルトだと思っていますから。しかし、女性のほうはできれば専業主婦になりたい、そこまでではなくても「サブ的」な働き方でいいと思っていて、男女の価値観のミスマッチが起きています。

−−家庭像の意識に関しては、女性よりも男性の変化のほうが先行しているということでしょうか?

浜田: いえ、男性側も共働きにしたいと思いながらも、育児や家事をちゃんと分担するかというとそこまでは至っておらず「家事育児は女性にやってほしい」という意識が残っているのが現状です。共働きまではアップデートされているけど、そこから先は旧態依然としている。だから女性は働いて稼いでね、でも家事と育児はこれまで通りにやってね、という状態で、「それは辛すぎる」と尻込みする気持ちもわかります。男女どちらかの意識が先行しているというよりは“アップデートの仕方がずれている”という印象ですね。

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−−このミスマッチのバランスが取れる時は来るのでしょうか?

浜田: 環境が変わるなどの必然性がなければ変わらないと思います。男性が共働きを求めているのも実質賃金が伸びないからです。そうした必然性が強まれば自ずと変わってくると思います。

このような変化は確実にやってきます。なぜなら人口が減るのは目に見えているからです。そしてAIなどの発達によってホワイトカラーの事務職は減っていき、また、優秀な外国人が来て日本人が職を失うこともあるでしょう。そうした世の中の避けられない流れがあり、そこから意識が変わっていくと思います。

−−著書のタイトルにもある通り「こうあるべき」という意識を変えなければいけない時代が来るわけですね。

浜田: そうです。私の世代は男女雇用機会均等法ができ、バブル期に就職したところですぐにバブルが崩壊しました。その後90年代は女性にとって総合職の求人が急減する「失われた10年」となりました。その後、少しずつ女性の採用が増えたところで今度はリーマンショックが起きました。震災などの災害も含め、そういう避けられないことは必ず起こります。だから、その時の状況にどうやって柔軟にしたたかに合わせていくか。ましてや、これからは災害や不況だけでなく、テクノロジーやグローバリゼーションはますます進化します。時代がどうなったとしても自分をアップデートできる柔軟性が必要になってきますね。

−−「こうあるべき」を取っ払い、柔軟性を身につけるために意識すべきことはありますか?

浜田: 自分の欲望に忠実になることです。今、女性の早婚願望が高まっていて、学生時代のパートナーと結婚する方が多いんですよ。彼女たちは結婚を“クロージング”と表現するのですが、「早くクロージング」したいと口にする方が多いです。それは不安の時代だから安定に向かっているということだと思うのですが、逆にそうした時代に“確実な手”と思って狙いに行っても絶対に思った通りには進みません。「不安だから安定に向かう」というのは実は矛盾しています。何をしたとしてもこれから何が起こるかわからないというのなら、やりたいようにやったほうがいいと思います。

紙からWEBへ。時代の変化に対応するために自分を変えた

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−−変化といえば、浜田さんご自身も長年紙媒体に携わりながら、ここ数年で新しくWEBに活躍の場を移されました。そこにはどのような考えがあったのでしょうか?

浜田: 「面白そうだな」と思って。というのも、私たちバブル世代はいつも面白そうな方向に行く傾向があります(笑)。「明日はもっと楽しいことがあるに違いない」と思っている世代なので。

でも、それと同時に、どこかに「紙媒体でできることをやり切った」という意識もありました。『週刊朝日』と『AERA』を合わせて23年間やって、燃え尽きた部分もあって。毎週締め切りがあるので、常に短距離走を走っては倒れるという生活でしたから。早く休みたいと思ったんです。

−−でも、結果としては休むことなくWEBの世界へと移ったのですね。

浜田: 「早く定年来ないかな」と思っていたんですけど、定年まであと10年というところで、リンダ・グラットンさんの『LIFE SHIFT』を読み、彼女のトークイベントのモデレーターを務めたんです。そこでリンダさんに定年が楽しみだと話したら「何言ってるの? 敬子さんの年だと平均94歳まで生きるわよ」と言われて。「私の同世代の友だちはリタイアしてガーデニングを始めたり、クルーザーを買ったりしたけど、みんな2~3か月で飽きている」と。それを聞いて「やばい」って思ったんです。

94歳まで生きるとしたらお金も足りない。そこで「75歳まで仕事をするには?」と考えた時に、紙しかやってないのはメディアの世界で生き残れない、と感じました。『AERA』時代からどんなに面白いコンテンツを作っても紙媒体を買わない若い人には届かないという課題を感じていたこともあり、彼ら若者に経済ニュースや国際ニュースを届けるためにはWEBしかないと。そこに『Business Insider Japan』の編集長をしないかと声をかけてもらったので、即決しましたね。

そう、これも必然から生まれた変化ですよね。メディアが紙からWEBに変化してきて、さらには人生100年時代に自分がどう生きるのかというと、自分も変わるしかありませんでした。

分断の時代。必要なのは「自覚すること」

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−−まさに現在は過渡期とも言える時代だと思いますが、そんな変化の時代に浜田さんや『Business Insider Japan』はどのようなことに取り組んでいきたいと考えているのでしょうか?

浜田: 『Business Insider Japan』はミレニアル世代が読者のメディアなので、できるだけ若い人たちの気持ちを世の中に発信しようと思っています。礼儀問題など、世代によってものの見方が違うことによって対立してしまうことが多く、そうした世代間の橋渡しをしたいと考えています。

例えば、私も50代なのでミレニアル世代とは考え方が違います。特にお金についての考え方は全然違っています。私はバブル世代なので、お金はあれば使ってしまいます(笑)。一方、若い人たちは不安世代だから堅実。でも好きなこと、こだわっているところには使う。そういうお金の感覚が違うことを念頭に置きながら若い世代と付き合うだけで、「なんでそれくらい買わないの?」みたいに傷つけることを言ったりもしない。こういった自覚を持つだけで変わってくることはあるはずです。

−−なるほど。

浜田: 逆もそうです。「デジハラ」という言葉がありますが、おじさんたちにはできないことはたくさんあります。そこで「そんなこともできないのですか?」って言ってしまえば、それは傷つきますよ。私もよく傷ついてしまいますし(笑)。そういった違いを認めるということが一番の近道だと思います。

−−違いを自覚してさえいれば、コミュニケーションの解像度も上がってくるでしょうね。

浜田: 「違う」と知ってさえいれば、そのギャップを埋めようとコミュニケーションするようになりますから。それと同じように、メディアとしてもミレニアル世代に向けて発信する以上「なんでそんなことも知らないの?」という態度は取らず、これまで経済メディアが当たり前のように使っていた言葉だとしても、その言葉がなんなのか、なぜそれを知っておくべきなのかということを伝えようと思っています。今はそれくらいメディアが近づいていかないと発信したいことは届かない時代だと思います。

浜田敬子
PROFILE

浜田敬子Keiko Hamada

Business Insider Japan統括編集長 AERA元編集長。1989年に朝日新聞社に入社。前橋支局、仙台支局、週刊朝日編集部を経て、99年AERA編集部へ。2004年にAERA副編集長、編集長代理を経て14年編集長に就任。16年5月より朝日新聞社総合プロデュース室プロデューサーを経て、17年3月末退社。同年4月より世界17ヶ国に展開するオンライン経済メディアの日本版統括編集長に就任。『羽鳥慎一モーニングショー』や『サンデーモーニング』などにコメンテーターとして出演。

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