導入事例レポート カスタムコントローラ

独立行政法人海洋研究開発機構様
国産パーツを多用した信頼性の高いパソコンが次世代の深海探査機をサポート


日本の海洋研究の中心地である独立行政法人海洋研究開発機構
四方を広大な海に囲まれ、太平洋側には長さ800km、深さ8,000mにもおよぶ世界有数の海溝である「日本海溝」を有する海洋国家の日本。日本人にとって海はとても身近な存在である。その海を研究するのが「独立行政法人海洋研究開発機構」である。現在、地球環境、地球内部、海洋生物の研究と、これらの研究を進めるための探査機の技術開発、および地球環境と地球内部の研究に必要な「地球シミュレータ」のハードウェアおよびプログラムの開発・運用をおこなっており、こうした研究開発を通して人類の発展に貢献することを目指している。

同機構は、海洋の調査研究のために潜水船や探査機を複数保有している。6,500mまで潜航できる「しんかい6500」のような有人潜水調査船のほかに、7,000mまで潜航できる「かいこう7000」のような無人探査機がある。無人探査機は、母船とつながったケーブルから電源の供給と遠隔操作を受ける「ROV(Remotely Operated Vehicle)」と、探査機自身が電源を搭載し、自律航行が可能な「A U V(Autonomous Underwater Vehicle)」の2種類に分けられる。「かいこう7000」はROVに該当し、AUVには3,500mまで潜航できる深海巡航探査機「うらしま」のほか、試験運用中の海洋ロボット「MR-X1」などがある。

今回取材をした同機構 海洋工学センター 海洋技術研究開発プログラム 自律型無人探査機技術研究グループは、このAUVのより高度な運用に向けて、燃料電池などの電源技術、海中での位置の確認技術、自律性を高める運動制御技術など深海探査機の要素技術を研究している。そして、試験運用中の海洋ロボット「MR-X1」の船上装置の一部としてロジテックのカスタムコントローラが利用されている。

与えられたシナリオで海洋を潜航できる自律型の海洋ロボット「MR-X1」
海洋ロボット「MR-X1」は、全長2.5m×幅0.8m×高さ1.2m、重さ800kg、潜航時間15時間の小型のAUVである。MR-X1自身に搭載されたコンピュータにプログラムされた「シナリオ」による自律航行と、音響による遠隔操作のためのシステムを開発・試験中である。また、支援母船とつながった光ファイバーで遠隔操作(UROVモード)もできる。実運用時のおもな役割は、海底の地形や組成の調査、水温・塩分濃度・CO2含有量などの化学分析、生物調査等を考えている。小型なうえに高度な姿勢制御システムを搭載しているので、狭い範囲で小回りのきいた運用を実現できる。さらに、ロボットアームを取り付けることも可能で、岩石や生物などの試料の採取もできるようになる。将来的には半自律のロボットアームを開発することで測定機器の設置など、深海での作業ロボットとしての役割も期待されている。

ロジテックのカスタムコントローラは、MR-X1の船上装置の一部として19インチラックにマウントされ、運用時はコンテナに収容された状態で支援母船「よこすか」に搭載される。カスタムPCはMR-X1に必要な情報の入力やデータ表示のための専用ソフトの処理用に使われている。具体的には、自律航行に必要なシナリオ入力のほか、MR-X1を運用する前におこなう動作チェック(プレダイブチェック)、UROVモード時の遠隔操作などである。また、MR-X1を光ファイバーでつなげた状態であれば、リアルタイムでモニタしている映像をキャプチャリングしたり、収集データをその場でグラフィカルに表示することもできる。

19インチラックマウント、信頼性と品質でロジテックのカスタムコントローラが選ばれた
今回、ロジテックのカスタムコントローラを採用した理由について、「19インチラックにマウントできること。そして国産メーカーのマザーボードと電源装置を使用していること。」と自律型無人探査機技術研究グループでMR-X1の開発を担当する吉田研究員は話す。

探査機の潜航中に、船上パソコンにトラブルがあり、再起動に時間がかかると、その間に探査機の位置を母船側で捕捉できなくなる恐れがある。これを防ぐために緊急用のバックアップシステムが用意されているが、パソコン自体の信頼性が低く、トラブルが頻繁に発生するようであれば使用に不安がある。

そこで今回は、ラックマウントタイプであること以外に、トラブルを減らすために信頼性の高いパーツを使用している製品を選定することになった。船上で機器を使用する場合、船舶のエンジンによる微振動が常に装置に伝わり、機器に影響を与える。品質が悪いパーツだと基板のハンダなどが知らぬ間に外れる可能性もある。また、海上で使用するため作業室内のコンテナに装置が設置されているとはいえ、塩分の影響を多少なりとも受けることも考えられる。品質の高いパーツを使うことで、トラブルの回数を減らすことは運用面では重要だ。こうして、19インチラックにマウント可能であり、国産メーカーのマザーボードや電源装置が使用されているロジテックのカスタムコントローラが選ばれたのである。

長年のノウハウが、あらゆる条件に見合ったカスタムコントローラを作り出す
ロジテックでは、今回のような過酷な環境でもパソコンが使えるように、標準モデルをベースに顧客の要望に応じたカスタマイズに対応している。筐体は、現場の状況に合わせて最適なものを提供できるように、一般的なタワー型から省スペース向けの小型モデル、さらには今回のように、19インチラックにマウントできるモデルまで取り揃えている。使用する各パーツにも使用条件やコストに応じたものを選定し、耐久性の求められる現場では、信頼性の高い国産品を多く採用している。また、自社パーツしか使えないケースが多い大手メーカーと違い、ロジテックならメーカー選定の制約がほとんどないという点も、顧客の要望に応じたカスタムコントローラ作りにはメリットになる。

しかし、ロジテックのカスタムコントローラ事業の強みは、このような製品バリエーションの豊富さやカスタム性の高さだけではない。顧客の要望と予算に応じて、これらのパーツをどのように組み合わせるのがベストなのかを提案できるノウハウを持っていることだ。20年以上、パソコン周辺機器を開発してきた経験に加え、エレコムグループの一員となったことで、ネットワークおよびI/Oデバイス分野のノウハウも充実し、サポートの幅も広がっている。

さらに、ロジテックは、長野県伊那市に自社工場を持っており、カスタムコントローラはここで高い品質管理のもと、1台ずつていねいに組み立てられている。また、恒温恒湿槽、振動試験装置、落下試験機などの試験設備を自社工場内に用意し、各種評価や試験を必要に応じておこなうことが可能で、コンシューマ市場よりも高い品質を求められる場合でも、顧客が十分に満足のいく製品を供給できる体制が整っている。

今後ますます重要度が増す海洋研究海洋ロボットへの期待は大きい
今後、海洋ロボット「MR-X1」は、実用化に向けてさらに自律性能を高めていくことになる。吉田研究員によると、まずは運動性能や画像の認識性能の向上を目指す。ロボットアームについては、人間が遠隔操作によりマニュアルで制御するのではなく、画面上でターゲットを指定すれば、あとはMR-X1自身が考えてターゲットを捕獲できるまでになることを目標としている。また、マンマシン・インターフェイスについては、例えばシナリオ入力の場合、自動車のカーナビのように、海底マップにポイントを指定するだけでMR-X1が自律航行できるような、使いやすい設計にしたいとのことである。

海洋ロボットの性能向上に伴い、その運用をサポートするロジテックのカスタムコントローラにも、より高い信頼性が求められることになるだろう。

地震大国であり、陸上に資源をほとんど持たない日本にとって、地震研究や海洋資源の発掘のために海洋研究の重要度は今後さらに増すばかりである。将来、MR-X1のような海洋ロボットが何台も深海を動き回り、ロボットアームを使って自由に作業することが期待されるに違いない。