2002年に発売された士郎正宗デザインマウスの開発段階を「系譜」として一覧化。
形状に大きく変更が加えられたモックをピックアップした。
これより前に、士郎氏より前衛的だがユニークで美しい形状を提案いただき、それをより一般的なマウスに再解釈頂いたもの。中央部分の複雑な段差などが絶妙のバランスで再現されている。
左を元に、形状を使いやすさ重視に振って頂いたもの。特に左のボタンの形状がシンプルなものに変更され、また写真では判別しにくいが高さもUPされており、持ち心地が大幅に改善されている。ただし以前のモデルと比較するとコンサバティブな印象は否めない。
今回のデザインのルーツとのなるもの。銀と黒に塗り分けられた色彩がダイナミックで、我々を強く惹きつけた。以後、本マウスのイメージカラーとなる。ありがちなエルゴノミクス系マウスとは逆に、右側に振り出されたテールのデザインが秀逸。
最終のものにかなり近いモックアップ。ちなみに本モック以外はすべて士郎氏の手により、制作されたもの。構造検討の結果、部品構成の問題解決のために、左のものとカラーリングが逆になっている。なおこれから最終製品までに、ホイール後端の中央パーツ形状や左ボタンの「ELECOM」ロゴの大きさ等、微妙な変更が加えられている。この後、ブッシュ(ケーブルの根元の部品)のデザインを頂き、最終デザインFIXとなった。
比較的初期のモックアップ郡のうちのひとつ。最終的には直接引き継がれていないが、銃のイメージを直接的に表現されており、士郎氏がデザインを楽しんで進められていた事を伺わせる。表面に直接描かれた「ELECOM」の文字やスライドのグルーピングは、士郎氏の落書き。
傍流となったデザインの一つ。これも上同様右側に振ったデザイン、銀と黒とのコンビネーションが強いインパクトを醸し出している。
▲当時は石粉粘土で作られていたモック。最終的に数十もの形状検討モックが制作された。
▲サイズはおよそ幅6.9cm×奥行10.4cm×高さ3.5cm。
2002年当時の士郎正宗デザインマウス。シルバー、ブラック、ホワイトの3種を展開。また、デザイン工程、コンセプト、制作秘話などのインタビューを交えたオリジナル小冊子が付属した。
※画像は当時発売していた製品とは若干異なります。
約23年ぶりの復刻となるエレコムの「M.A.P.P.」シリーズ。2026年春に第1弾として発売予定の「士郎正宗デザインマウス」について、士郎氏に2002年当時と2025年現在のデザインの変遷についてうかがった。
純粋に「うわ~できたよ本物のマウスだ!」というのと同時に、最終モックアップとの差異の有無・程度や、実機における左右回転の抑え込み具合、前後動時に手の甲や長掌筋周辺にかかる抵抗や、手首周辺とテーブル面の接触度合いの感じ、実物のグリップ重心の具合や芯柱の感じ、重さやぐらつき感の有無、掌の密着感軽減具合と隙間感などなど、他の多くの仕事同様に喜びよりも各種要素の確認と、何か大事なことを忘れていないかとの心配が主だったように思います(大体の場合、初見時は仕事進行途中なので)。
賛否是非が分かれていたと思います。今回復刻版を企画していただけたということは、それなりに一定程度どこかで誰かのお役に立てたということだと自分に都合良いように解釈することにします(笑)。また、マウスをどういった作業でどれくらいの頻度や用法で使うか、人によって実にさまざまなのだということを実際に再確認できたのは収穫でした。このような通常だと得られない機会をいただいたことに今も感謝しています。マウスが合わなかった方、すみません。でも人と道具の相性は個々其々です、ご容赦ください。
▲2002年に発売された「M-MAPP1SMシリーズ(士郎正宗デザイン)」。標準価格7875円(税込)で3種を展開
20年以上が経過し、家電量販店の店頭観察などから思うに、当時と今で異なっているのは人間工学のどの部分に需要を見出し重点を置くか (左右対称で低く平たいモデルが多かった頃や、左右役割分担で丸みが強い世代、奇抜なアイデアが盛り込まれた派手なモノが登場したり、事務機器メーカーさんが超小型の機種を文具屋さんに置いたり、など時々の変化や流行り廃りがあるようです)や、俗にいう「用と美」や「クラフトとデザイン」の比重・割合、マウスの需要が世の中のどこにどんな形で存在しているか(パソコンサプライやゲームコントローラーとしてのあり方、据え置き主眼かモバイル用か、有線か無線か)、などの点で時代の変化を感じます。またユニバーサル(万人向け)からマルチバーサル(多様な価値観の確立)に、保守か革新か、景気の良し悪しといった要素もあるかと思いますが、一方で本件は復刻版企画なのでそうした観点に大きな影響は受けないかもしれません。
▲士郎氏のデザイン工程、コンセプト、制作秘話、インタビューを交えたオリジナル小冊子(※2002年発売モデルに付属)
▲「これからのデザインに必要な要素とは?」という問いに対し、当時の士郎氏は「現在の流行りで言えば「癒し」の要素を持ったゆとりある親切丁寧なデザインが短期的にはイケ線でしょう。目指すべき思想やその行程が見えがたいために消費心理が冷え、皆疲れており、癒しが必要になっているのだと思います。しかし長期的には「未来のコンセプト」「希望的未来」といったものが必要であると思います。デザインは夢の提示であり、実現・実用ですから、その責任は重大です。今はデザイン分野においては大変な時代であると言えるでしょう」と述べている。
2002年版では3DCGモデルを作ってレンダリング、静止画をプリント提示して企画の方向や細部を検討・摺り合わせし、ある程度決まった段階で石粉粘土によるモックアップ製作を行い、それを元にさらに企画の方向や細部を検討・確認・摺り合わせ、僕は石粉粘土モックアップ納品まで、という流れでした。
復刻版では2週の進行ごとにエレコムさんにお邪魔し、会議室で資料やモックアップ、作っていただいた3Dプリンター出力モデルや表面処理サンプルなどを前にしてのミーティング、といった流れです。
仕様変更に関しては僕の発案やオーダーではありません。エレコムさんには基本的に「いま風の仕様」だと聞いています。作業としては変更箇所に関する2D上面側面図のプリントと色の方向性確認のレンダリングプリントを1枚、モックアップを2種と親指側確認&検討用の部分粘土モックアップを4種製作しました。
▲2002年版用に石粉粘土で作られたモックアップ。最終的に数十ものモックアップが製作され、形状検討が行われた
▲士郎氏により新たに製作されたマウス本体のモックアップ。造形には2002年時と同じく石粉粘土を使用
▲親指側確認&検討用の部分粘土のモックアップ4種。全体のサイズ感がわかるよう底面には厚紙が貼られている
過去にCAD系・グラフィック系で同じ拡張子なのにツールによってデータの持ち方やパラメータの取り扱いが何種類もあることにより「データが化ける」現象が起きて難儀した経験があり、昨今互換性がどうなっているか再び試そうという気にまったくならないため(笑・すみません、作業環境がダメージを受けて復旧が大変面倒だったもので……)、3Dデータそのもののやりとりは避けるようにしています。そのため今回もアナログ (石粉粘土モックアップ。今回は時間の都合で前回よりも粗いモデル)による曲面や持ち具合の意思疎通と確認が僕の担当部分の主です。
士郎正宗(しろう・まさむね)
漫画家。同人活動を経て1985年『アップルシード』でメジャーデビュー。画業40周年にあたる2025年、代表作『攻殻機動隊』を中心とする初の大型展示「士郎正宗の世界展~「攻殻機動隊」と創造の軌跡~」を開催。
士郎正宗デザインマウス
2002年版の窪みベベル部分は復刻版の追加ボタン操作にとって「親指の疲労度を上げるかもしれない負要素」とみなし、「親指の屈曲変化量と挙動作の労力」が低強度になるよう滑らかに変更(士郎氏コメント)
●サイズはおよそ幅6.7cm×奥行10.6cm×3.8cm
●5ボタン+DPI切り替式、無線接続・充電式採用。USB端子口を追加
●親指ボタンが追加されたことで手のひらの接触分を調整。意図しないスイッチングミスの確立を回避
●専用ソフト「マウスアシスタント」を採用予定
※掲載の仕様・外観は開発中の参考情報です。発売時に内容が異なる場合がございます。
M-SHIROW1BK
(ブラック)
M-SHIROW1SC
(ブルー)
M-SHIROW1WH
(ホワイト)
2026年春発売予定
各色:初回限定3,300個
販売価格OPEN