省人化

物流業界の効率化のために押さえておきたい最新事情

執筆者BUSINESS SOLUTION WEB 編集部
2019.04.09

ECサイトの市場拡大に伴い、物流・流通業界は大きな変革を求められています。大量輸送時代とは異なり、多品種少量を多頻度、かつスピーディにユーザーのもとに届けなくてはいけません。

一方で労働人口の減少を背景に、特にトラック運転手など輸送の担い手は深刻な人手不足の問題を抱えています。加えて、国土交通省によると、40〜54歳の労働者が約45.2%を占めているのに対し、29歳以下は10%以下となっており、ドライバーの高齢化が進んでいるため、若手の人材確保は急務です。業務効率化が必要不可欠となった現在、モーダルシフトや共同輸送、サプライチェーンマネジメントなど、さまざまな取り組みの事例が生まれています。

今回は物流と倉庫業務にスポットを当て、業界として取り組むべき改善策について紹介します。

<参照元:国土交通省「トラック運送業の現状等について」

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疲弊が進む現在の物流業界

物流業界の現状

業界大手のヤマト運輸株式会社が、2017年9月に未払い残業代の支払いに関して、書類送検を受けたことをきっかけに、物流業界における過酷な労働実態が明るみになりました。当時ニュースなどでも大々的に取り上げられたこともあり、サービスの改訂や運賃の値上げなど、利用者側が不利益を被る事態に発展したことは記憶に新しいところだと思います。同時に、業界を挙げた「働き方改革」、つまり抜本的な労働環境改善も注目されるようになりました。

物流業界の営業収入は年間約25兆円にのぼり、旅客運送収入の約14兆円/年と比べてもその規模の大きさがわかります。中でもトラック運送業は、鉄道、航空、海運と比較してもその規模ははるかに大きく、事業者数、労働者数ともに他事業を凌ぐ規模です。これだけ大きなマーケットで起きている過酷な労働環境問題は、一体何が原因なのでしょうか?

長時間労働と人材確保が一番の課題

労働環境が過酷になる原因の1つに、拘束時間の長さがあります。特に長距離ドライバーの場合、移動距離が長くてもできるだけ早く届ける使命があるため、自然と勤務時間が長くなってしまいます。トラックの運転に加えて、配送センターや物流倉庫における待機や荷物の積み下ろしの時間も労働時間に加わるため、おのずと拘束時間は長くなります。

加えて、冒頭でも指摘したドライバーの高齢化と人材不足が挙げられます。すでに物流業界を取り巻く労働環境の問題がニュースなどで取り沙汰されていることもあり、若い世代の業界に対するイメージを考えると、人材確保の足かせとなってくるでしょう。

<出展:国土交通省「物流を取り巻く現状について」

急速に成長したECビジネスの影響

トラックドライバーの労働環境の悪化をさらに加速させているのが、昨今のECビジネスの普及です。モノはお店で買うのではなく、インターネットで注文し、自宅や職場で受け取るスタイルが恒常化してきました。ECサイト業界では競争が激化しており、同業他社にサービスで負けないために配達スピードを競うようになりました。その結果、ユーザーが注文した翌日に製品が届くよう手配するなど、サービスが過熱しています。しかも、大量輸送ではなく、多品種・少量・多頻度のため、管理が非常に煩雑となります。

こうなれば物流を担う運送各社の負担も大きくなります。ドライバー1人当たりの荷物量が増大するのは当然のことで、加えて留守宅への再配達といった非効率さもドライバーを苦しめる要因となっています。

疲弊が進んでいるのは物流のみならず倉庫業務も同様です。さまざまな製品を取り扱うECビジネスでは、これらのアイテムを保管しておく倉庫の規模も広大になります。24時間ひっきりなしに入るオーダーを広大な敷地の中からピッキングし配送することは、バックヤードで働く人の大きな負担になっています。

健全さを取り戻すために、国と物流業界が今できること

政府による取り組み
物流業界の働き方を改善するため、政府や企業、関連団体などがあらゆる取り組みを始めています。具体的にどういったアイデアが現場を変えていくのでしょうか?

政府主導による「物流総合効率化法」とは

国土交通省が施策する「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」(以下、物流総合効率化法)は、物資の流通にともなう環境負荷の低減(CO2の削減)や、流通業務の合理化(輸送網の集約、モーダルシフト、輸配送の共同化など)により、流通業務の省力化を図る事業者に対して、関連支援措置などを定めた法律です。総合効率化計画の認定を受けた事業者はさまざまな税制優遇を受けることができます。

認定を受けるにはいくつかの条件をクリアしなければなりませんが、基本的には2以上の者(異なる2者以上の資本主)の連携による活動であることと、それらが輸送・保管・荷さばき・流通加工を一体的に実施することが認定の大前提になります。

認定を受けると以下のようなメリットがあります。

・事業許可などの一括取得
・認定計画に基づき取得した事業用資産にかかわる税制特例措置
・都市計画法などによる処分についての配慮
・運行経費などの一部補助 など

物流効率化の具体策

続いて、“流通業務の合理化”の具体策について見てみましょう。

輸送網の集約

工場で製造された製品は、通常は一度物流倉庫に格納され、その後各小売店舗へと配送されます。物流倉庫は複数に分散させることで配送先への移動距離を短縮することができますが、一方でトラックの稼働台数が増えながらも平均積載率が低くなるという問題点を抱えていました。

そこで輸送網の集約で効率よく配送できるようにします。青果品の輸送網集約事業としては初めて、物流総合効率化計画の認定をされた味の素物流株式会社他では、従来、「東北エリアから大阪」「九州エリアから東京」へ、複数台で個別に輸送していましたが、東北からのものは東京で、九州からのものは大阪で積み替えを行い、「東京⇔大阪」間を1台のトラックに集約しました。このように輸送網を集約することで、平均積載率を30%からほぼ100%まで向上させ、4,032時間を省力化することが見込まれます。

<参照元:国土交通省「素材輸送および青果品の輸送網集約事業を初認定!」

モーダルシフト
従来、トラックだけで輸送していたものを一部鉄道の貨物輸送に切り替える仕組みです。特に長距離輸送の場合に効果的な方法で、トラック輸送は「工場-ターミナル駅間」「ターミナル駅-小売店舗間」のみになるため、ドライバーの負担を大幅に減らすことが可能です。また、トラックから鉄道輸送に切り替わることによって、大幅なCO2削減にもつながります。近年はビッグデータとAIを駆使した供給予測の技術も進化しています。

輸配送の共同化
従来、メーカー各社が輸送会社を手配し製品を運んでいたため、荷物の量が少なくてもトラックを稼働させることは珍しくありませんでした。そこで配送先が同一方面の場合、異なるメーカーでも同じトラックに荷物を積み込み共同配送しようとする取り組みが見られるようになりました。こちらもトラックドライバーの工数を抑えるばかりでなく、トラックの稼働台数が減ることでCO2削減にも寄与します。特にビールメーカー4社によるエリアごとの共同物流などは大きな効率化を実現しています。

<出展:製・配・販連携協議会「配送効率化」取組事例報告

ITを利用した、現場レベルでの取り組み

ITを活用したシステムづくり

国の支援策や法整備と並んで、物流・倉庫業界に携わる各企業の率先した取り組みにも期待が集まっています。そこで、効率化に向けたシステムづくりや作業の負担を軽減する取り組みを紹介します。

サプライチェーンマネジメント

サプライチェーンマネジメント(通称SCM)は、製品の製造に必要な部材の調達から、設計・製造を経て、最終的にエンドユーザーのもとに届けられるまでの全工程を一元管理できるシステムです。無駄を省き、最適化と合理化を目指した経営管理手法を実現してくれます。

ネットワークの発達によって、製造や保管、物流、販売に至るまでの全工程でリアルタイムの情報が共有されるようになり、計画的な製造から在庫の適正化、人材の有効活用などが可能になりました。

ロジスティクス4.0

「ロジスティクス4.0」とは、IT、IoT、AIによってこれまで人が担っていた作業を自動運転技術やロボットで代行し、省人化・標準化を図るイノベーションを指します。昨今の例で言えば、ドライバーの人材不足を補うこととドライバーの人件費を削減する目的で、クルマの自動運転やドローンによる配達や調査などの開発が進んでいます。すでに多くの事例があるものとしては、RFIDによるトレーサビリティシステムや、ビッグデータやAI機能を駆使した需要予測システムなどがあります。このような大きなソリューションではなくても、アナログな手作業が残っている工程をデジタル化することで、大きな業務効率化を期待できます。

倉庫管理システム

倉庫管理システム(通称WMS=Warehouse Management System)は、倉庫業務の3つの柱である「入庫」「在庫」「出庫」を一元管理するシステムです。一例を上げると、人の手で記帳やデータ入力を行っていたものをバーコードシステムに切り替えることで、現場のスタッフはハンディターミナル(携帯端末)を用いてバーコードを読み取り、正確な情報を目視しながらピッキング作業に従事できます。これによりタイムリーかつミスの少ない入出庫を実現します。在庫や入荷作業などの管理に特化したシステムになります。

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デジタルアソート(デジタルピッキング)

物品を格納する棚にインジゲーター(表示器)を設置し、作業する品目の種類や数量を表示させ、作業者は表示された数に従い種まき式で仕分けをするシステムです。製品知識が不要の単純作業になるため、標準化と生産性向上に大きく寄与します。また仕分けミス、ピッキングミスの減少にも直結します。

まとめ

EC需要が高まる一方で、物流・倉庫業界はトラックドライバーをはじめとする人材不足に陥っています。この悪循環が続く限り、人命を損なうような大事故に発展する可能性は否定できません。各事業者が率先して声を上げ取り組んでいくべき課題であることを再認識し、IT技術を利用した「物流の効率化」を検討してみてはいかがでしょうか。

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