サービタイゼーション、製造業のサービス化とは?事例とともにいま起きている変革を解説
従来、製造業は「モノを製造し販売する」という売り切りモデルが主流であり、製造に特化した業界でした。しかしIT、IoT、AIといった技術の進歩とともに、デジタル技術を駆使した「スマートファクトリー」の概念が登場するなど、製造業は変革を迎えようとしています。
中でも製品そのものだけでなく、製品に付随したサービスを消費者に提供する「サービタイゼーション」「製造業のサービス化」というビジネスモデルに注目が集まっています。
今回は、そんな「サービタイゼーション」「製造業のサービス化」について事例とともに紹介します。
サービタイゼーション、製造業のサービス化とは?
デジタル技術の活用により、製造業が提供できる価値が拡大しました。中でも、工場のデジタル化によるさまざまなデータの取得は、ただモノを製造して販売するだけではなく、販売後の製品稼働状況の把握、適切なメンテナンス施策などに活かされ、「モノ+サービス」の提供を可能にしています。
製品データの活用による「仕組みづくり」や「コトづくり」が今後の製造業における競争優位の決め手になると言われています。このようにモノだけでなく、モノ+コトや、モノが生み出すコトに価値を置くビジネスモデルを、「サービタイゼーション」や「製造業のサービス化」と呼びます。
サービタイゼーション、製造業のサービス化の事例
製品販売後のアフターサービスや、製品機能自体をサービスとして提供するなど、製造業のサービタイゼーションについていくつかの事例を紹介します。
ビックデータの分析、活用でサービスを提供(建設機器メーカー)
某建設機器メーカーでは、販売する建設機器にGPSを搭載することで、自社が提供している製品の稼働状況を遠隔地でもリアルタイムで把握できます。そこで取得した膨大なデータから、建設現場の生産性を分析し、顧客が保有する車両の稼働率向上やコスト削減につながる情報を「サービス」として提供しています。
また、同社の子会社ではドローン、 ICT建機をレンタルサービスとして提供。建設現場にドローンを飛ばし、3次元測量データを取得することで、従来の測量よりも効率的な作業計画やシミュレーションに利用でき、顧客にとっては高額な建機を購入せずにレンタルで活用できます。
ICT活用による農作物の一元管理と生産性の向上(農業機器メーカー)
某農業機器メーカーは、次世代施設園芸システムを提供しており、ICTを活用したデータ収集・分析による農作物の収穫時期や収穫量の予測、生育状況の一元管理が期待されています。農業人口の減少や就農者の高齢化を考えると、ICT技術を駆使したサービスの提供は今後さらに拡大していくでしょう。また上記の建設機器メーカーと同様に、農業機器から得た稼働状況や位置情報データから、生産性向上につながる情報の提供も行っています。
スマートファクトリー化による情報の一括管理(タイヤメーカー)
バリューチェーン内のさまざまな情報をICTやIoTを用いて解析・シミュレーションするなど、工場のスマートファクトリー化を目指しています。市場におけるタイヤの情報や開発情報を人間のスキルに依存せずに分析し、消費者が求める性能のタイヤを迅速に生産することが期待されています。またタイヤの使用状況を把握することで、適切なメンテナンス時期の提案をするサービスを提供するなど、製品提供後のアフターサービスにも注力し、バリューチェーン全体での効率向上を目指しています。
包括契約によるサービス・コストの削減(エンジンメーカー)
航空機用のジェットエンジンを扱う某エンジンメーカーは、エンジンを単品で販売するのではなく、飛行時間単位での費用を支払う包括契約という契約形態をとっています。IoTと連携したエンジンから、稼働状況や整備状態をリアルタイムで管理することで、修理・点検などのタイミング、故障を防ぐ予防保全を顧客に提供しています。エンジンの最適化が稼働率を高め、サービス向上やコストの削減につながります。
以上4つの事例を紹介しましたが、製品に関連するサービスの提供や、製品製造のノウハウ自体をサービスとして提供するなど、製造業のサービス化には複数の形態があることがわかります。これからの製造業が競合他社との差別化を図るためは、サービタイゼーション、製造業のサービス化を検討することが求められそうです。
サービタイゼーション、製造業のサービス化が求められる背景
では、サービタイゼーション、製造業のサービス化が求められるようになった背景には、何があるのでしょうか。製造業の生産革命と、消費者ニーズの2つの視点から解説します。
インダストリー4.0の推進とスマートファクトリーの拡大
インダストリー4.0とはドイツ政府が提唱した、情報通信技術を活用し製造業を発展させるためのプロジェクトがベースとなっています。1970年代から進められてきた「ソフトウェアを用いた自動化の進展」を第3次産業革命とし、その後起きるさらなる革新的な生産革命である「第4次産業革命」の意味合いもあります。インダストリー4.0とは、製造業における生産プロセスをデジタル化する取り組みを指し、インターネットを活用してあらゆるモノやサービスを連携し、新たな価値の創出やビジネスモデルの確立を目指します。
そして、インダストリー4.0の考えを反映した製造現場のことを「スマートファクトリー」と言います。ICT、IoT、AIなどの最新テクノロジーを、工場内の業務プロセスで活用し、製造効率を上げる取り組みです。スマートファクトリーの実現によって、従来コスト面で問題があった工場での単品生産が可能となり、顧客ニーズに対応した製品をリアルタイムで生産ラインに落とし込めます。また専門的な技術を必要とした作業も、ノウハウの蓄積からデータを体系化することで、属人的でない効率的な人材配置も可能となるのです。現場での作業効率や生産性の向上につながるインダストリー4.0ですが、その本質は「サービスの提供」にあります。製品を提供した後のアフターマーケット情報を、IoTやAIによってデータ解析することで、サービスの提供、つまり製品とサービスをセットで販売できるようになったのです。
参考記事:「スマートファクトリーとは?生産性をあげる未来の工場」
モノからコトへ。モノを所有することに価値を感じなくなった
サービタイゼーション、製造業のサービス化は、消費者ニーズの変化も背景となっています。これまで製品の機能に価値を見出していた消費者ですが、インターネットなどの普及により、いつでも必要な製品を手に入れることができる環境になりました。その結果、上記の事例で紹介したような製品の機能による価値よりも、体験や経験などの「コト」に対する消費意欲が高まったのです。
これらの背景により、製造業はその価値提供を製品のみに限らず、サービタイゼーション、製造業のサービス化による付加価値を含んだビジネスモデルとして提供できるようになりました。これは、競合製品との差別化をサービスの中身で図ることが求められるようになったとも言えます。
サービタイゼーション、製造業のサービス化の必要性とは
サービタイゼーション、製造業のサービス化の目的は、「顧客に買ってもらう」で終わっていたビジネスを、「顧客に使い続けてもらう」に変えることです。日本は世界的に見て高い技術力を持っており、高品質な製品を消費者に提供してきました。しかし、消費者ニーズがモノからコトに移り、製品の機能やスペックだけでは差別化できなくなっている現在、消費者は製品に対して必要以上の機能を求めず、個々のライフスタイルや価値観に沿った製品を使い続けることを求めています。
モノよりコト、パーソナライズ化により変化したサービスの具体例を挙げましょう。従来のサービスでは、製品が壊れたら、製造業者の受け取り、修理、引き渡しという工程があり、その間に消費者を待たせてしまうデメリットが生じます。
そのような無駄を減らすために活用されるのが、IoTやAIです。モノがインターネットにつながるIoTによって、リアルタイムで製品の状況を確認することができます。具体的には、製品の稼働状況を常に把握することで、製品のどの部分が壊れたのかがわかるため、適切に対応できる従業員を派遣して無駄のない修理をすることができます。また事前に壊れることを製品データから予測できれば、早期のメンテナンスも可能になります。
このようにIoTの活用とビッグデータの取得、AIの分析により、新たなビジネスチャンスが生まれるのです。
まとめ
これまで高品質な製品の提供を武器にしてきた製造業も、消費者ニーズの変化やIoTの普及、AIの発展によって、ビジネスモデルの革新が求められています。まずは工場のスマートファクトリー化による業務の自動化を進め、既存製品を活かしたサービスの提供を目指しましょう。