- 概要
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産業用PCは、生産現場や医療施設、セキュリティ拠点など過酷な環境で安定稼働を求められるコンピュータです。
そのため、一般的な民生用PCとは異なり、耐久性やセキュリティ性能、設置性など多くの面で高い基準が求められます。
本記事では、産業用PCに求められる使用要件の基本と、具体的な構成要素や設計要件について解説します。
産業用PCにおける使用要件の基本
産業用PCは多様なカスタマイズが可能ですが、それゆえに不要なカスタマイズをしてしまうと、効果を発揮できないだけでなく無駄なコストも発生してしまいます。
産業用PCを導入する際、下記のポイントを押さえておきましょう。
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なぜ要件が重要なのか
産業用PCは、工場、医療、防犯といった業務の継続が特に重要な現場で使用されます。
これらの環境では一瞬の停止が業務全体へ深刻な影響を及ぼすため、PCの安定稼働が欠かせません。高温や粉塵、振動など過酷な条件でも動作し続けることを前提に、明確な使用要件の定義が必要とされます。 -
民生用PCとの主な違い
民生用PCとの主な違いは、耐久性、連続稼働性、長期供給の有無にあります。産業用PCは24時間365日の稼働に対応し、長寿命設計や部品供給の継続性が保証されています。
さらに、用途に応じた拡張スロットやマウント形式の選択など、柔軟な構成が可能である点も特長です。
産業用PCに求められる主な要件
産業用PCは、過酷な環境下でも安定して稼働することが求められます。
そのため、一般的な民生用PCとは異なる、いくつもの専用要件が存在します。
以下で、代表的な6つの構成要件について解説します。
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耐熱・耐湿・耐振動設計
工場や屋外など、温度・湿度・振動が過酷な環境下でも安定稼働することが必要です。
そのため、産業用PCでは放熱性能を高めた筐体構造や、防塵・防滴加工が施されています。さらに、内部構成部品も振動や衝撃に強いものが選定され、長期使用に耐える設計となっています。
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長期間の連続稼働とファンレス設計
24時間365日の連続運転が想定される現場では、熱暴走を防ぐための冷却設計が重要です。
産業用PCではMTBF(平均故障間隔)を長く設計し、ファンレス構造による熱対策が主流です。これにより可動部品の故障リスクを軽減し、保守点検の頻度も抑えることができます。
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データ保護と物理的な改ざん防止
セキュリティ対策として、TPM(Trusted Platform Module)などのセキュリティチップが導入されます。
また、SSDの暗号化対応や、外部アクセスを防ぐ筐体ロック機構も重要な要素です。
これにより、機密データの保護や不正操作の防止が可能になります。 -
OSやソフトウェアの長期安定性
産業用途では、OSやソフトウェアの長期的な安定性とサポートが不可欠です。 Windows IoTやLTS(Long Term Support)版のLinuxが多く採用されており、更新管理がしやすくなっています。
さらに、遠隔からのソフトウェア監視や更新管理ができる環境も整備されています。 -
小型化・省スペース設計
狭い制御盤や装置内に収めるため、小型かつ設置性に優れた設計が求められます。
具体的には、DINレール取付け対応やパネルマウント型、フルフラット筐体などがあります。 柔軟な設置方法により、さまざまな現場環境へ無理なく導入できます。 -
エッジAI・顔認識などの最新要件
近年では、AI推論や画像処理を現場で実行できる構成が求められています。
そのため、GPUを搭載したモデルや、リアルタイム処理に対応したSoCが搭載されるケースが増えています。
とくに顔認識や異常検知など、現場での即時判断が求められる用途での需要が高まっています。
おわりに
本記事では、産業用PCに求められる使用要件について解説しました。
産業現場で求められる耐久性やセキュリティ、長期供給といった要素は、民生用PCとは異なる基準に基づいて設計されています。
安定稼働と高信頼性を実現するためには、使用環境や目的に応じた要件を明確にし、最適な機種を選定することが不可欠です。

